[書誌情報] [全文PDF] (7620KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 81(6): 449-461, 1980


原著

高カロリー輸液時のリン体内移動に関する検討

千葉大学 医学部第1外科教室(指導:伊藤健次郎教授)

小川 正憲

(昭和54年11月13日受付)

I.内容要旨
高カロリー輸液(TPN)時一定量の無機リンを添加しない場合,低リン血症が起こるが,その詳細なメカニズムについてはいまだ定説がなく, これを防止するP所要贔は発表者により大きく異なる.最近の教室の成績ではTPN 時肝において,投与カロリーに比例した量のグリコーゲンの蓄積と共にこの約3倍の水分の蓄積が同時に加わり,肝の腫大を来す.この細胞内水分量の増加が細胞内主要陰イオンたる無機燐の細胞内移行を促し,燐無添加TPNの低燐血症発生の原因であろうとの推察にもとづき, 検討を加えた.
実験方法:(1) 体重約2kg仔犬に種々レベルのTPNを行ない,肝重量,水分, グリコーゲン,総P量を測定した.
(2) 200g前後のラットにTPN を行ない, 血清無機P値, 肝重量,総P量,無機P,有機P,水分,グリコーゲン量の変化を追い同時に筋肉内グリコーゲン,水分,総P量を測定し, 比較検討した.
(3) 臨床例で種々のP量を含むTPNを行ない血清無機P,Pバランスを測定し, P投与量を検討した.
結果:(1) 仔犬肝総P量は投与カロリーの増加に応じて増量する.又肝総P量は水分, グリコーゲンの増量に比例して増量する.
(2) ラットではTPN により肝重量の増加と共に総P量は増加し, TPN前値の約2倍に達するが,筋肉重量及び総P量は殆んど増加しない.肝内総P量の増加の殆どは酸不溶性分画の増加による.
(3) 臨床成人例では10mEq/1,000CalのP投与量は維持量として十分であるが,飢餓例の初期量としては不十分であり,20mEq/1,000Calは一応の基準を満足する.
以上の知見より, P無添加TPN 開始期の低P血症は血清Pの肝細胞内移行によりおこり,この時期のP必要量はこの量をも考慮すべきことを示している.

キーワード
高カロリー輸液, 低リン血症, リン所要量, 肝内リン, 筋肉内リン


次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。