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日外会誌. 81(5): 397-406, 1980


原著

甲状腺疾患における甲状腺自己抗体の検討

千葉大学 医学部第1外科学教室(指導:伊藤健次郎教授)

永野 耕士

(昭和54年11月13日受付)

I.内容要旨
各種甲状腺疾患の甲状腺自己抗体を測定し, 癌および腺腫においては自己抗体と組織所見,特にリンパ球浸潤およびリンパ濾胞形成の有無について,さらに癌については癌の腺内転移,リンパ節転移との関連を検討し,また末梢T,B 細胞との関係についても調べた.抗マイクロゾーム抗体(MCHA),抗サイログロブリン抗体(TGHA)は,富士臓器のキットにて測定し,102以上を陽性とした.末梢T細胞はE rosette formation,B細胞はEAC rosette formationにて測定した.
MCHA,TGHA陽性率は,慢性甲状腺炎62例では,93.2%,65.6%,バセドウ氏病19例, 93.3%,44.4%,甲状腺癌40例,34.3%,21.6%,甲状腺腺腫54例,30.0%,6.0%,であつた. 癌では腺腫に較べTGHAの出現頻度はP<0.05にて高かつた.抗体価は, 癌や腺腺では低値のものが大部分であつた.両抗体とも乳頭腺癌症例では, 濾胞腺癌症例より高頻度の検出率が見られたが,有意の差ではなかつた.甲状腺癌では腫瘤の大きさが大きくなるにつれて,TGHA ではその出現頻度が高くなる傾向が認められた.
甲状腺自己抗体と非腫瘍部の甲状腺組織との関係は,腺腫ではリンパ濾胞形成とMCHA,TGHA それぞれの間にP<0.01で,またリンパ球浸潤とTGHA との間にはP<0.05で関連が見られた.甲状腺癌においては, TGHAは, リンパ濾胞形成とP<0.001,リンパ球浸潤とはP<0.01 で関連が見られた.自己抗体と癌巣周辺のリンパ球浸潤,リンパ濾胞形成との間には有意の関連はなかつた.また癌の腺内転移やリンパ節転移との間にも有意の相関はなかつた.
各種甲状腺疾患における末梢リンパ球subpopulation は,各疾患とも対照群に比し有意の差は見られなかつた.またMCHA,TGHA の抗体価は,末梢リンパ球数,TおよびB細胞率,数のいずれとの間にも有意の相関を示さなかつた.

キーワード
甲状腺自己抗体, リンパ球浸潤, 癌の腺内転移, リンパ節転移, リンパ球subpopulation

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