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日外会誌. 81(1): 47-54, 1980


原著

体外循環下開心術における溶血に対するハプトグロビンの評価

鹿児島大学 医学部外科学第二講座

西村 基 , 宮崎 俊明 , 湯田 敏行 , 尼子 春樹

(昭和54年5月28日受付)

I.内容要旨
急性溶血によつてもたらされる最も重要な障害は急性腎不全であるので, 血漿中に増加するHbの腎糸球体からの濾過を防止することは有力な対策と考えられる. 血清Haptoglobin(Hp) は遊離Hb と定量的に結合して安定したHp-Hb複合体をつくり,腎糸球体からのHbの濾過を妨げる. 従つて急性溶血に際して体内のHpの不足を体外からの投与で補うことは腎保護に投立つと考えられる.
体外循環下開心術の臨床例21例に精製Hpを投与し,非投与15例を対照として,血清Hp及び血清Hbの消長を観察した.投与量は小児2000U成人4000Uで体外循環開始後30分に人工心肺回路内に投与した.血清中のHbはHp-Hb複合体と遊離Hbからなり,両者の和が血清総Hbとなる.血清中のHpもHp-Hb複合体と遊離Hpからなり,両者の和が血清総Hpとなる. Hp1.42mgはHb1mgと結合するのでHp量はHb結合能(HbBC)で表現できる.即ちHbBCはHb量mg/dlで表現されたHp量である.
対照群においては,遊離HpのHbBCは術前値43.2mg/dl から体外循環の進行とともに激減し,60分で3.7,終了時負の値になつた.血清総Hbは体外循環中次第に増加し,遊離Hbは60分まで0であつたのが,終了時に9mg/dlになつた. Hp群では,Hpは30分で全て結合型に消費されて,遊離Hpは0になつたが, Hp投与で増加し, 60分で25.4, 終了時では8.3mg/dlで遊離型温存の余裕を保つた.血清Hbは総Hbの増加とともに30分で遊離Hb陽性になつたが, Hp投与後総Hb量は対照群より高値を示したに拘らず, HbBCはその後正の値に保たれ,遊離Hbの出現を術後に至るまで阻止した.
BUN,血清クレアチニン,クレアチニン・尿素・滲透圧・自由水クリアランス値はHp群で正常範囲に保たれ,血清生化学的検査値は両群間に有意差を生じなかつた.

キーワード
体外循環, 開心術, 溶血, ハプトグロビン, 血清ヘモグロビン

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