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日外会誌. 124(6): 581-583, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第123回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「若手教育の光と影」
4.地域における若手外科医のための教育体制の課題とその方策―グループウェアを用いた大分消化器外科手術手技の迅速評価システム(Oita-RASOP)開発から導入までの取り組み―

1) 大分大学医学部 総合外科・地域連携学講座
2) 大分大学医学部 消化器・小児外科学講座

上田 貴威1) , 川﨑 貴秀1) , 猪股 雅史2) , 白石 憲男1)

(2023年4月29日受付)



キーワード
地域外科医療, 外科手術教育, アンケート調査, 手術手技評価システム

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I.はじめに
地域外科医療においては,1)外科志望者の伸び悩みからくる外科医師の不足1),2)外科医の地域偏在,3)働き方改革による外科医の勤務時間・勤務形態への影響,などの課題が議論されている.一方,外科専門研修プログラムでは地域医療の経験が必須2)とされるなど,地域医療における外科教育の重要性は増している.
われわれは,これまでに大分県地域の勤務外科医に対し,外科教育に関するアンケート調査を複数回にわたって行ってきた.これらの結果から,地域における若手外科医のための教育体制の課題を明らかにし,その方策を考察する.

II.外科教育全般に関するアンケート調査(勤務外科医対象)
大分県49施設の勤務外科医235名を対象に①外科教育・指導に対する意識,②外科教育・指導に対する自己評価,③外科教育・指導のシステムについて,無記名アンケート調査を行った.その結果,教育・指導に関して経験がある外科医は86%,興味がある外科医は75%,教育・指導が好きな外科医は64%であった.自身が満足いく教育を受けてきたと思う外科医は65%であったものの,若手外科医に満足いく教育を行っていると思う外科医は12%,自身に教育者・指導者としての資質があると思う外科医は27%と共に低い割合にとどまった.さらに教育・指導の評価は,自己評価19%,若手外科医からの逆評価11%,上司からの評価14%であり,56%の外科医は評価法がわからないとのことであった.

III.若手外科医に対する手術教育に関するアンケート調査(外科施設指導責任者対象)
大分県34施設の指導責任者34名を対象に①若手外科医の執刀経験,②手術指導法,③若手外科医の手術への評価について無記名アンケート調査を行った.若手外科医の執刀条件については,術式の手順を十分に説明可能(87%),助手としての十分な経験(80%)であった.最初に執刀許可する術式は,腹腔鏡下虫垂切除術(83%),腹腔鏡下胆嚢摘出術(59%),鼠径ヘルニア修復術(前方アプローチ)(55%)であった.若手外科医が執刀する際の指導医の役割については,標準的な手技を安全に施行させる(100%),合併症・偶発症を起こさない(70%)が多かった.若手外科医への指導機会については,手術中(77%),術後(33%)であった(いずれの設問も複数回答可).若手外科医への手術評価については,「必要に応じて伝える」(83%),「初回術式のみ伝える」(7%)であり,その手段については,口頭(83%),文書(3%)であった.

IV.外科手術教育に関するアンケート調査(外科専攻医対象)
大分県に勤務する外科専攻医29名を対象に①自身の現状・執刀経験,②日常臨床における手術教育について,無記名アンケート調査を行った.手術の執刀経験については,「十分執刀」が21%,「まずまず執刀」が52%,「それほどない」が17%,「全くない」が9%であった.執刀交代の経験は,頻回17%,たまにある69%,ほとんどない13%であった.現状の手術教育に対しては十分満足41%,満足48%であり,やや不満・不満は10%であった.術後のフィードバックについては,「指導医と口頭」72%,「自身のみでビデオを見る」24%,「指導医とビデオを見る」3%であった.現行の手術教育にて改善すべき点は,術後のフィードバック法(31%),予習・トレーニング法(28%),術前の指導法(21%)であった.

V.考察
われわれがこれまでに行ってきた,地域医療に従事する外科医に対するアンケート調査から,大分県地域における若手外科教育の光と影の側面が明らかとなった.すなわち,光の側面は,外科医は教育や指導に対する興味・関心が高く,教育が好きであること.また若手外科医における現行の外科教育への満足度は比較的高いということである.一方,影の側面は,外科医は自身の教育法に満足しておらず,自己評価が低いということ.また,手術指導に関しては,術中のみがほとんどであり,術中指導のみならず,術後のフィードバックに関しても口頭のみが多いこと.さらに,外科教育に関する指導医の評価法が定まっていないことがあげられた.
われわれは,地域での外科教育における大きな課題の一つである,若手外科医の執刀した手術に対する効率のよい評価法・フィードバック法の欠如に対する方策として,グループウェアを用いた手術手技評価システム,「大分消化器外科手術手技の迅速評価システム(Oita-Rapid Assessment System of Operative Procedures〈Oita-RASOP〉)」(図1)を考案・開発した(特許出願中:2022-127155)3).本システムは,common diseaseおよびcommon malignanciesに対する代表的な10術式に関して,若手外科医および指導医それぞれが各手術操作項目(10~20項目程度)や周術期ケアに対し5段階評価をグループウェアにて登録するものである.これにより,手術時間や出血量のみならず,術式別の総得点数や手術操作項目ごとの評価点数に関する学習曲線の若手外科医・指導医間での共有が可能となり,学習効率が向上するものと期待している.また,グループウェアの管理者は,施設横断的に指導医の指導効果を評価することが可能となり,指導医のFaculty Development (FD)にも寄与すると考えている.
今後は,大分県下の地域基幹病院に本システムの導入を進め,その有用性を評価するための多施設共同研究を行っていく予定である.

図01

VI.おわりに
大分県地域の外科医は教育への関心が高く,若手外科医の満足度も高いものの,共通した教育評価システムがないことが課題であった.今後,Webを用いた手術教育評価システムの導入と効果についての検証を行っていきたい.

 
利益相反:なし

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文献
1) 外科医希望者の伸び悩みについての再考. Japan Surgical Society. 〔cited 1 Aug. 2023〕. Available from: https://jp.jssoc.or.jp/modules/aboutus/index.php?content_id=68
2) 日本外科学会 専門研修プログラム整備基準. Japan Surgical Society. 〔cited 1 Aug. 2023〕. Available from: https://jp.jssoc.or.jp/uploads/files/specialist/info20230615-02.pdf
3) Ueda Y, Kawasaki T, Inomata M, et al.:Development of a new feedback system using groupware in surgical technique education focused on laparoscopic surgery. Ann Med Surg (Lond), 85 (7): 3769-3771, 2023.

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