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日外会誌. 124(6): 575-577, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第123回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「若手教育の光と影」
2.持続可能な外科医教育のためのOff the job training ecosystem

1) 自治医科大学 外科学講座心臓血管外科部門
2) 名古屋市立大学 心臓血管外科

荒川 衛1) , 山田 敏之2)

(2023年4月29日受付)



キーワード
Off the job training, 教育, エコシステム

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I.はじめに
近年,外科医教育のためのOff the job training (Off-JT)が注目され,心臓血管外科専門医取得の要項にOff-JT時間が加えられた.われわれは,経営,IT分野で注目されているecosystemにヒントを得て修練医のトレーニングの需要,指導医の熱意を結び,企業の理解を得て,持続可能な形でOff-JTを提供する「Off-JT ecosystem」を掲げて活動を行ってきたのでその取り組みを報告する.

II.心臓血管外科専門医とOff the job training
心臓血管外科専門医の取得要項は,一定の手術経験および学術活動が必要である.それに加えて2018年からOff-JTを30時間以上という項目が追加され,移行措置の後2022年から必須項目となった.
Off-JT必須化の「光」の部分は,さまざまなOff-JTの方法が開発され,効果的なものが選別され,普及し,外科医の技術の向上が期待されている.一方ではOff-JTの必須化で,修練医,指導医が困惑したという「影」の部分が存在する.
心臓血管外科専門医に認定される人数は年間200名程度であり,年間の受験者が延べ6,000時間のOff-JTを経験する必要がある.そのために,心臓血管外科専門医認定機構を構成する日本心臓血管外科学会をはじめ周辺学会がOff-JTを開催するために尽力している.しかしながら,学会や研究会主催で行われているOff-JTの時間をホームページから調べたところ,年間,延べ2,000時間程度であり,必要な時間の3分の1程度である.不足分は各施設で修練医が指導医に指導を依頼せざるを得ず,指導医はOff-JTとしての指導時間を確保しなければならない.Off-JTの時間は自己研鑽として時間外勤務で行うべきか,勤務時間内に行うべきか議論の余地がある.自分の手技のためであれば自己研鑽で時間外と思う外科医も多いかもしれないが,航空業界でパイロットを目指す候補生のOff-JTの時間は実機訓練前で1.5年間で300時間以上あり,全てが勤務時間内であり,候補生が費用を負担することはない1).また,少なくとも指導医の指導は勤務とみなされるべきであると考えるが,無給かつ勤務時間外に行っていることがほとんどであり,Off-JTの「影」の部分である.

III.一般社団法人メディカルキャリアラボの設立
2008年に,若手心臓外科医のための情報提供,トレーニング,外科医の交流のための会「若手心臓外科医の会」が発足した.そのメンバーを中心に,今後の活動の幅を広げるべく2016年に新たな法人を設立した.法人格を得るメリットと同時に,責任を負うため,覚悟と共に法人設立に至った.この法人の活動として,Off-JTを効率的かつ有用で,それに関わる周囲の人々が,少しずつの負担で開催,運営できるようにする仕組みを目指した活動「Off the job training ecosystem」を目指して活動を続けている.

IV.Off the job training ecosystem
上級医にOff-JTとして手技を教えてもらいたいと思うことは多々ある.また,教える熱意を持っている上級医も多くいる.しかしながら,Off-JTを通して一対一で手技を教えてほしいと言うことは容易ではなく,上級医も,Off-JTを企画,運営することはいささか面倒である.当法人では,まず,そのような修練医の要望と上級医の熱意をOff-JTを開催し結びつけ,上級医に指導の対価を支払う.また,企業の関わりは不可欠であるが,企業はトレーニングのためだけに無償で医療機器を貸し出すことはできないため,器械展示,または,ブースを設けて適正使用としてのトレーニングも併施するなどの工夫をして,企業の社内審査で理解を得る形で,Off-JTへの参画を依頼する.プログラムを作成するにあたっては,高度な手技のトレーニングキットは高価であるため,他にサブの手技のトレーニングを用意することで,参加者が時間を持て余さないように工夫している2).このような修練医主導のOff-JTをこれまで7回開催し,さまざまな検討をした上で現在は,小規模Off-JT パッケージ(参加者6~10名 講師1~2名,スタッフ2~3名 企業1~2社,Off-JT算定時間3~4時間)が修練医,指導医,企業の負担とメリットのバランスが取れており持続可能なOff-JT ecosystemであると考えている(図1).

図01

V.おわりに
外科医教育にOff-JTは重要であると考えているが,Off-JTが外科医育成に効果があり義務化されるならば,提供体制,指導行為への対価についての議論をすべきである.われわれは現在の環境で,主催者,指導医,企業の負担を抑えて,効率的なOff-JTを行うことができるように,持続可能なOff-JT ecosystemというパッケージを考案した.しかしながら法人が主催して提供できるOff-JT時間にも限界があるため,パッケージとして全国に展開し,後援という形で全国に広げ,効果を示し,財源,人材確保など公的な働きかけを促したい.

 
利益相反:なし

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文献
1) 荒川 衛:外科医育成のためのOff-the-job training(Off-JT)の現状と将来 6. 他職種(航空業界)のOff-JTに学ぶ.日外会誌,120(5): 520-525, 2019.
2) Yamada T, Suda H, Yoshitake A, et al.: Development of an Automated Smartphone-Based Suture Evaluation System. J Surg Educ, 79(3): 802-808, 2022.

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