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日外会誌. 124(6): 568-571, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第123回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「外科における「働き方改革」への対応とその問題点」
4.外科専属診療看護師(NP)導入成功の要点と外科医の「働きやすさ」改革への貢献

1) 国立病院機構長崎医療センター 外科診療看護師(NP)
2) 国立病院機構長崎医療センター 外科
3) 国立病院機構長崎医療センター 乳腺内分泌外科

中原 未智1) , 米田 晃2) , 福井 彩恵子2) , 藤瀬 悠太2) , 池田 貴裕2) , 三好 敬之2) , 岡本 辰哉2) , 北里 周2) , 杉山 望3) , 竹下 浩明2) , 前田 茂人3) , 黒木 保2)

(2023年4月28日受付)



キーワード
診療看護師(NP), 医師の働き方改革, タスク・シフト/シェア

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I.はじめに
2024年に施行予定の医師の働き方改革では,医師の健康確保と長時間労働の改善が主な目的とされている1).しかし,高齢化等により医療需要はますます増加し医療逼迫とも言える状況の中,安全で質の高い医療を確保しつつ医師の働き方を変えていくのは容易ではない.
そこで,柔軟なタスク・シフト/シェアが求められる医師と,一定レベルの診療を自立して提供することが可能な診療看護師(Nurse Practitioner: NP)2)の協働が,安全で質の高いチーム医療と患者のQOL向上をもたらすのではないかと考え,当院外科は,2021年より外科専属NPを配置した.
本稿では,当院外科へのNP導入成功の要点とNP導入による外科医の働きやすさへの貢献を報告する.

II.本邦における診療看護師(NP)の現状
本邦におけるNPは,日本NP教育大学院協議会が認めるNP教育課程を修了し,NP資格認定試験に合格した者と定義されており,2008年より養成教育が開始されている2).NP資格保持者は2023年4月1日時点で759名であり2),看護師全体の0.05%と非常に少ない現状である.
NPの基本属性に関しては,2020年にNP資格保持者:248名を対象に行われた調査において,NPの活動場所は外科領域が22%と最も多いことが明らかとなっている3).一方で,NPの立場として稼働できていないNPも一定数存在している3)
様々な医療施設・医療チームにおいてNPの導入が成功するには,NPに対する認知と理解が不可欠であり,NPの価値=成果・貢献を示し信頼を得ることが重要である.

III.外科へのNP導入時の課題と工夫
外科におけるNPの役割については,国内における外科専属NPは少数であり具体的な報告が少ないことから,NPと外科医とでNP導入時のコンセプトの共有を要した.
そこで,NP導入初期の1年間は,外科の一般的・標準的知識の習得を目的に,専門領域臓器別チームをローテイトし,診療補助の一環として継続的に手術助手業務を実践する当院独自のプログラムを導入した.

IV.目的・方法
当院外科における導入プログラムの内容および実績の詳細を明らかにし,NP導入による外科医の働きやすさへの効果を評価検討することを目的とした.
NPと協働する外科医11名を対象にVAS(0~10.0の連続変数)によるアンケート調査を実施し,NP導入前後における認識および働きやすさの変化を数値化した.質問事項は,NPと外科チームに関するもの,NPがいない場合とNPがいる場合の比較に関するもの,NPと初期臨床研修医との比較に関するもので,独自に作成した(表1).

表01

V.結果・考察
1. 外科専属NP導入プログラムの内容
外科へのNP導入初期の1年間は,消化管および肝胆膵外科のローテート体制を整え,診療補助の一環として各チームの手術および診療補助を実施した.
2. NP導入プログラムの実際
◆ 手術および診療補助実績
導入プログラムの1年間で合計116件,454時間の手術に助手として参加した.
手術を通して外科医はNPの能力と制限を理解・把握することができることで,NPと外科医の信頼関係構築に繋がったと考える.
◆ 特定行為実践
導入プログラムの1年間で各種ドレーン抜去やPICCの挿入等,162件の特定行為を実践した.
多くの特定行為実践により,NPは周術期管理における質と安全性を担保することが可能となった.
3.外科医へのアンケート調査(表2
◆ NPと外科チームについて
NP導入前の外科医によるNPの認識は平均4.4と高いとは言えない結果であったが,導入プログラム後における外科医の働き方に関しては,外科チームにNPがいた方が良いが平均9.6,NPがいることで働きやすいが平均9.3と高評価であり,他の項目においてもNPに対し好意的な評価が得られた.
◆ NPがいない場合とNPがいる場合の比較
NPがいない場合といる場合の比較では,NPがいる場合の方が外科医が手術等で病棟不在時も診療を滞りなく進めることができる(p=0.001),多職種連携を円滑に行うことができる(p=0.001)等,有意に高い評価を得ていた.
◆ NPと初期臨床研修医との比較
NPと初期臨床研修医との比較では,手術助手においてNPが有意に信頼されており(p<0.001),NPは外科医の安定した手術実施にも寄与していることが明らかとなった.

表02

VI.働き方改革時代の外科チームにおけるNPの価値
外科チームへのNP導入によって,外科医は手術室・病棟・外来すべてにおいて,NPによるタスク・シフト/シェアが一部可能となった.また,外科医だけでなく看護師等の多職種も,NPというアクセスしやすい存在により,身体的・精神的負担が少なくいきいきと働ける職場環境,つまり「働きやすい外科チーム」の実現が可能となることが,働き方改革時代におけるNPの価値であると考える.

VII.おわりに
NPは,外科医のタスク・シフト/シェアに貢献し,外科チーム医療の改善を図る他,外科医が働きやすいと感じる職場作りの一翼を担っていた.その背景として,NP導入時のコンセプトの共有と,外科医との信頼関係構築のための導入プログラム期間が有効であると示唆された.
用語:
診療看護師(NP):一般社団法人日本NP教育大学院協議会が認めるNP教育課程を修了し,同協議会が実施するNP資格認定試験に合格した者2)

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省ホームページ「医師の働き方改革について~医師の時間外労働上限規制の制度開始に向け,残り1年で都道府県が取り組むべき事項について~」.2023年8月6日. https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001094035.pdf
2) 一般社団法人日本NP教育大学院協議会ホームページ.2023年8月6日. https://www.jonpf.jp/
3) Suzuki M, Harada N, Honda K, et al.: Facilitators and barriers in implementing the nurse practitioner role in Japan: A cross-sectional descriptive study. Int Nurs Rev, 1-8, 2022.

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