[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (632KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 124(6): 559-561, 2023

項目選択

定期学術集会特別企画記録

第123回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「外科における「働き方改革」への対応とその問題点」
1.地域拠点病院での働き方改革への対応

きつこう会多根総合病院 外科

森 琢児 , 實近 侑亮 , 今中 孝 , 小澤 慎太郎 , 林田 一真 , 加藤 弘記 , 細田 洋平 , 廣岡 紀文 , 小川 稔 , 小川 淳宏 , 上村 佳央 , 西 敏夫 , 丹羽 英記

(2023年4月28日受付)



キーワード
働き方改革, 外科研修, 外科医の数

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
医師に対する働き方改革の法律の施行が2024年から始まる.医師の健康を守るための法律であるが,地域医療を支える使命は維持しなければならない.当院は救急,外科診療における地域での拠点病院である.これから外科医の労働時間が制限され,当直明けの手術参加が制限される中,働き方改革の法律の施行を目前にしてどのようにして地域医療の貢献を維持しながら,働き方改革の法律を乗り越えることができるか,地域の拠点病院としての試みを報告させていただく.

II.当院での現状
当院は年間に外科で全身麻酔1,600症例,年間9,800件をこえる救急搬送を受け入れ,特に急性腹症科として年間300〜400症例の緊急手術を行い地域の医療に大きく貢献している.さらに当直の質を維持するために,当直医を非常勤医に頼らずに常勤医で行っている.
当院では外科医のQOL,労働環境改善のための方策を以前より当学会でも報告しOnとOffを意識した労働環境整備をいち早く行ってきた.しかしコロナ禍で断らない救急を継続し,近隣の救急体制の変化にて一部の若手外科医の時間外労働時間は1,860時間を超えていた.

III.労働時間短縮,労働環境の整備の工夫
以前から報告しているように1)当院では1)同世代の医師が助け合うBuddy制度.これは同世代の医師が当直明けなどでお互いに主治医と同じように補完しあう.現在は後期研修医(専攻医)の人数によって,複数の後期研修医どうしで助けあうチーム制に近い形になっている.今後は主治医制を廃止してチーム医療に移るべきかもしれない.2)当直明けの帰宅の明文化.医局の規程に当直明けの午後は帰宅可と明記した.また,土日祝日当直分は平日に1日休んでも可能と明記した.ただ,当直明けに帰宅してもいいというだけでは若くて元気な若手医師は帰宅せずに,病院に残って当直中に診察した患者をフォローし,緊急手術になれば喜んで担当医として執刀していた.これを受け,当直明けは帰宅できるではなく,強制的に離院させることに変更すると,当直明けの昼には離院するようになり,時間外労働時間が減少した.3)当直中の指示の整理,タスクシェア.病院全体で,当直医が効率よく仕事ができるように医師指示をできるだけ充実させて,患者が不利益にならないように,かつ当直医が少しでも効率的に働けるようにした.また入院時に包括的な指示がきちんと入力されているように病院全体で取り組んだ.早くから特定看護士,医療事務補助者を採用し,外科医の処置,事務的な負担の軽減を図った.4)早朝の回診を廃止し,できる限りカンファレンスも時間内に行うようにした.このように効率よく仕事ができるように工夫した.

IV.宿日直許可取得について
膨大な救急搬送,手術を抱え,当直医を非常勤に頼らず常勤医で行っている当院では,働き方改革の法律施行を前に,危機感を感じて3年前に行政に相談に行き対策を検討した.病院として対応できる工夫は行っており,当直時間を労働時間とカウントされない宿日直許可取得を指示された.3年前に労働基準監督署に宿日直許可の申請を相談に行くと,救急病院は取れるわけがない,と門前払いされた.その後,行政が働きかけを行う事により,労働基準監督署も宿日直許可所得に協力的に動いてくれるようになったが,当院のような断らない救急を掲げている病院では,当直医は断続的に救急患者に対応しており,労働環境の整備を行っても現時点では宿日直許可を取得するのは困難であった.しかし現在行政も宿日直許可取得を勧めており,今後許可の基準が緩和されていくかもしれない.

V.若手外科医確保のための取り組み
働き方改革が叫ばれているが,現在の小手先の対策では5年先,10年先には本当の意味での働き方改革はなしえない.病院の最後の砦である外科医の母数を増やすことが不可欠であると考える.
当院では初期研修システム開始当初から制度の変遷にかかわらず,内科6カ月,救急3カ月とともに外科6カ月を必修としてきた2).これは当院の初期臨床研修の基本理念がどの科に進もうが,最初の2年で骨太の研修医を育てることが肝要であると考えているからである.そのためにも外科研修は全身管理,急変時の対応,縫合処置などを習得するには不可欠であり,将来いかなる科に進むにしても,外科研修は必須と考えている.
初期研修の間にその興味が失われないよう外科への壁を取り除き,さらに興味が湧くように様々な工夫をしてきた.まず手術の魅力を伝えるためにできるだけ手術に参加してもらう.ドライラボ,ビデオなどでの教育の上で,手術での質を担保しながら第一助手,第二助手そしてモチベーションの高い初期研修医には,助手だけではなく指導医のもと執刀も経験してもらう.手術で外科医が感じるワクワクする感覚を若い先生に実際に手術を通して経験してもらう.
新専門医制度で後期専攻医の進路選択も大きく変わった.研修医の希望に沿うために大学病院を中心とした専門医プログラムに加えて当院を中心とした研修医プログラムを準備した.
また若手医師が外科医を目指したくなるような外科医の労働環境の改善も同時に必要である.1)Incentive制度.これは緊急手術の時間外手当に加え,手術料の7.5%支給している.他科との色分けができモチベーションの維持につながっている.2)手術でのパート制度.手術をパートに分け,後期研修医が手術において能力に応じてのパートを担当してもらった.少しでも能力に応じて手術に参加できるようにした.3)病院全体で産休だけでなく育休が取れるようになった.
このような試みの結果,当院の研修システムからたくさんの外科医を輩出してきた.2018年には外科入局者がゼロの時期もあったが,2020年からは初期研修終了後当院に残り,後期,専攻医として外科医を目指す医師が毎年2名いる.2023年7月現在,後期外科研修医が3学年で6名在籍しており,若手後期研修医が増えたことにより当直回数が減り,またBuddyとして助け合って当直明けも帰宅できるようになった.時間外労働時間が1,860時間を超えていたが,2024年の法律施行前にB基準である1,860時間以内に収まる目処が立った.今後A基準に収めるためにはさらなる工夫と宿日直許可取得が必要であると考えられる.
今後働き方改革で,外科医の労働時間も減少すれば若手医師の外科希望者もさらに増加するかもしれない.働き方改革のピンチを外科医全体が増えるチャンスにしたいと期待する.

VI.おわりに
断らない救急などを実践し,地域医療に真摯にむきあっている病院にとって働き方改革は医療体制を維持するには厳しい制度である.外科スタッフの人数増加で手術,緊急体制を維持しながら,なんとか働き方改革にも対応できる目処が立った. 今後の展望として働き方改革を利用した労働環境の整備とともに若い外科医を増やす努力が不可欠であると思われる.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


文献
1) 森 琢児,丹羽 英記,金森 浩平,他:定期学術集会特別企画記録 第116回日本外科学会定期学術集会 特別企画(1)「外科医の待遇―明るい未来のために―」7.明るい未来のための外科医の待遇改善―次代を担う外科医のために.日外会誌,117(5): 449-451, 2016.
2) 森 琢児,小澤 慎太郎,林田 一真,他:定期学術集会特別企画記録 第121回日本外科学会定期学術集会 特別企画(4)情熱・努力を継続できる外科教育」2.当院での初期研修からスタートする若者を魅了する外科教育.日外会誌,122(6): 667-669, 2021.

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。