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日外会誌. 124(6): 556-558, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第123回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「インフォームドコンセントの功罪―理想のICとは―」
6.鼠径ヘルニア術前患者説明における説明補助動画の有用性について:事前調査研究

1) 京都大学大学院 薬剤疫学分野
2) 長津田厚生病院 外科
3) 最成病院 外科
4) 横須賀市立市民病院 外科
5) 横浜市立みなと赤十字病院 外科

中嶌 雅之1)2) , 藤田 和恵3) , 亀田 久仁郎4) , 杉田 光隆5)

(2023年4月27日受付)



キーワード
インフォームドコンセント, 説明動画, 説明ビデオ, 術前説明, 鼠径ヘルニア

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I.はじめに
医療行為の中で,患者と家族に対する術前説明は重要なものであるが,説明内容の網羅性や理解のしやすさ,医療者側患者側双方の時間的負担などいくつかの課題がある.これらの課題を解決する方法の一つとして,術前説明に補助動画を併用し,その効果をアンケート調査によって明らかにする.

II.方法
2021年6月から2022年6月までの期間に,3か所の共同研究期間で,18歳以上で鼠径ヘルニア手術を受ける患者を対象とした.期間を前期(動画なし群)と後期(動画あり群)に分け,それぞれ最低15名ずつの研究対象者を設定した.術前説明後に,郵送による患者アンケートを回収し,患者背景,患者満足度や理解度,説明時における医師の望ましい態度(「任せて下さい」といったような自信のある態度,もしくは,合併症などの情報を細かく説明し,治療方法もすべて本人に決めてもらうような慎重な態度)を調査,比較した.主要評価項目の患者満足度と理解度は,先行研究を参考にしてCSQ-8を用いた1).また,動画は国内・海外のガイドラインを参考に,日本外科学会指導医,他科医師(麻酔科,内科),他職種研究協力者(法曹関係者,サービス研究者)の監修を受け約15分のものを作成した.

III.結果
動画なし群は17名,動画あり群は18名が参加した.患者背景は,年齢74.9歳(動画なし群),68.4歳(動画あり群),性別は男性16名女性1名(動画なし群),男性18名(動画あり群)であった.主要評価項目のCSQ-8は,動画なし群で平均23.9(1名無記載),動画あり群で平均27.2(p=0.06)であった(表1).厚生労働省が提示する術前説明に必要とされる項目は2),多くの項目で「きちんと説明された」と回答されていたが,「術者と助手に関して」(動画なし群で17名中3名,動画あり群で18名中2名)と「費用」(動画なし群17名中2名,動画あり群で18名中2名)は「きちんと説明された」の回答が少なかった.術前の不安は,動画なし群で,改善7名,不変7名,悪化2名(1名無記載)であったが,動画あり群では,改善12名,不変5名,悪化1名であった.望ましい医師像については,自信のある医師像が8名,慎重な医師像が18名,どちらとも言えないが8名であった(無記載1名,群による比較なし).

表01

IV.考察
本研究では,有意差は認められなかったが,術前説明に動画を併用することで,患者の理解度・満足度が向上する可能性が示唆された.また,術前に感じていた不安も動画を併用することで改善傾向が認められた.ただし,動画あり群で,動画内で費用の説明をしていたにも関わらず,「説明を受けていない」の回答が多数であったため,アンケートを「動画+対面説明」に対してではなく,「対面説明」のみに対して答えていた可能性が考えられた.
本研究の限界点として,日帰り手術を含まない患者群であり,平均年齢がやや高く,地域も関東地方に限定されているため,日本の鼠経ヘルニア患者全体を代表していないことが挙げられる.他の地域や,日帰り手術を受けるような患者層(より若く,インターネットリテラシーが高く,労働に従事している事が多いと考えられる)に対しても調査を行う必要がある.
今回,インフォームドコンセントの時間は測定しなかったが,先行研究の結果から,術前対面説明に,説明動画を加えることによって説明の短縮化を図れる可能性が挙げられている3).理解度や満足度が変わらなければ,医療従事者にとってだけでなく,患者や付き添い人に対しても病院に滞在する時間を減らせるメリットがある.本研究では,補助動画の併用が理解度や満足度を上昇させる可能性を示唆していたが,今後は理解度・満足度を減少させることなく,対面における説明時間の短縮が可能かどうかも調査していくことが望まれる.ただし,インフォームドコンセントには患者や家族との信頼関係を構築するという大事な役割があり,癌に対してなど生命に関わるような手術や疾患に関しては,これまで同様に十分な時間をかけたインフォームドコンセントが必要だと考える. 患者の望む医師像については,慎重な姿勢の医師を望む傾向にある一方で,自信のある医師を望む患者も一定数認めた.インフォームドコンセントの方法や姿勢は医師毎,病院毎に,もしくは患者によって変えることが可能であろうが,緊急時でない限り,必要な情報は提供するべきである.事前に動画を視聴しておくことで,必要な情報を提供することができるため,医師による対面説明の自由度がより高くなるかもしれない.

V.おわりに
これまで,鼠径ヘルニア術前説明に補助動画を用いた研究は報告がなかったが,今回の研究で,動画を併用することにより,患者の理解度,満足度を向上させる可能性が示唆された.今後,他の地域,患者層に対する研究や,ランダム化比較研究などを行い,動画の有用性についてさらに研究を行っていく必要性がある.

 
利益相反:なし

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文献
1) Mawhinney G, Thakar C, Williamson V, et al. : Oxford Video Informed Consent Tool (OxVIC): a pilot study of informed video consent in spinal surgery and preoperative patient satisfaction. BMJ Open, 9:e027712, 2019.
2) 厚生労働省.診療情報の提供等に関する指針.2023年4月26日. https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0623-15m.html
3) Zhang Y, Ruan X, Tang H, et al. : Video-Assisted Informed Consent for Cataract Surgery: A Randomized Controlled Trial. J Ophthalmol, 2017; doi:10.1155/2017/9593631.

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