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日外会誌. 124(6): 543-545, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第123回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「インフォームドコンセントの功罪―理想のICとは―」
2.事前の説明が不十分であったために医療事故として医療事故情報収集事業へ報告した事例の検討

1) 静岡県立静岡がんセンター 医療の質・安全管理室
2) 静岡県立静岡がんセンター 胃外科
3) 静岡県立静岡がんセンター 整形外科
4) 静岡県立静岡がんセンター 大腸外科
5) 静岡県立静岡がんセンター 肝胆膵外科
6) 静岡県立静岡がんセンター 食道外科

谷澤 豊1)2) , 村田 秀樹1)3) , 泉 眞美1) , 山名 詩乃1) , 飯島 久子1) , 望月 敬浩1) , 塩見 明生4) , 杉浦 禎一5) , 坂東 悦郎2) , 坪佐 恭宏1)6)

(2023年4月27日受付)



キーワード
インフォームドコンセント, 医療事故, 医療安全, 医事紛争, 手術

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I.はじめに
医療事故等収集事業は,医療機関から報告された事故等事案やヒヤリハット事例を分析し提供することにより,医療安全対策に有用な情報を広く医療機関で共有するとともに,国民に対して情報を公開することを通じて,医療安全対策の一層の推進を図ることを目的とし,日本医療機能評価機構が厚生労働大臣の登録を受けた「登録分析機関」として実施主体となり運営されている.2023年3月31日現在,全国の1,631の施設が参加しており,参加施設から収集された事例の分析結果は,定期的な報告書や年報として公表されている1)
登録分析機関に報告する事例は,図1の通りであり,誤った医療や管理を行っていなくても,事前に予期しなかった,もしくは予期していたものを上回る処置や治療を要した事例も報告対象となる.「予期していた」かの判断基準は,医療事故調査制度の対象事案と同様であり,事前に患者本人や家族に説明していない場合や診療録に記録されていない場合,「予期していた」とはいえず,報告対象となる.
本研究の目的は,当院で発生した外科手術後の続発症において,「事前に説明していなかった」,あるいは,「診療録に記録されていなかった」ことが理由で,「予期していなかった」と判断し,登録分析機関に報告した事例の頻度とその内容の特徴を明らかにすることである.

図01

II.対象と方法
2020年4月から2022年9月の間に,当院が登録分析機関に報告した事例の中から,外科手術後の続発症を抽出し,説明不足が理由で「予期しなかった」と判断された事例について検証した.

III.結果
対象期間に登録分析機関に報告した事例は46件で,その発生領域は,続発症が16件(35%),チューブ・ドレーン管理に関する事例が13件(28%)であり,この2領域で約2/3(図2A)を占めていた.発生場面を外科手術の周術期とそれ以外で分類すると,24件(52%)が外科手術の周術期に発生していた(図2B).外科手術の周術期に発生した24件のうち,15件(62%)が続発症であり,うち10件が事前に説明していないことにより報告された事例であった(図2C, D).
事前に説明していなかった10例のうち,他臓器損傷が5件,標的病変が切除できていなかった事案が2件あった(表1).
他臓器損傷はすべての外科切除で起こりうる事象であり,また,最近では化学療法後の手術で術中に標的病変が同定できない事例もある.そのため,医療安全部門から,「他臓器損傷」と「標的病変が同定できない」可能性について説明文書に追記するよう,全診療科に周知した.

図02表01

IV.考察
事前に「予期していた」と判断されるには,事前に過不足のない説明を行い,その内容を診療録に記載することが必要である.そのためには,術式ごとに統一した説明文書を用いて説明し,患者ごとにその患者に特異的な事項を追加することが重要となる.一方,統一した説明文書の記載内容が不十分であると,すべての患者に対して説明不足となる危険性もある.
医療安全部門は説明不足であった事案を周知することにより注意喚起することはできるが,すべての説明文書の続発症に関する記載事項の不備を指摘することは不可能である.患者が病状や治療法,治療のリスクなどを十分理解し,納得した上で治療を受けられるよう,診療科ごとに常に統一した説明文書の記載内容をアップデートしていく必要がある.
しかし,術前の説明で続発症の説明に多くの時間を割くと,患者の手術に対する不安を増長させる可能性もある.続発症ごとに発生頻度や重症度の説明をし,また,続発症が発生した場合には全力で対処することを付け加えるなどし,患者の不安を和らげることも必要である.

V.おわりに
過不足ない説明を受け,続発症などの発生のリスクを十分理解した上で,手術を受けるかどうか決定することは患者の権利である一方,医療者側からみると,有事の際に紛争を回避することにもつながりうる.ひとたび紛争が起きると,事前の説明よりも,はるかに多くの時間や労力が必要となる.過不足ない説明は患者の満足度を上げるだけでなく,有事の際の医療者側の保護ともなりうるので,遺漏なく行うことが肝要である.

 
利益相反:なし

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文献
1) 日本医療機能評価機構医療事故情報収集等事業ホームページ.2023年8月1日. https://www.med-safe.jp/

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