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日外会誌. 124(6): 461-463, 2023

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先達に聞く

いろいろなアプローチ

日本外科学会名誉会員,医療法人社団健育会湘南慶育病院 

前田 耕太郎



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I.はじめに
“現役,若手に対する助言や過去の経験談などを執筆”するという“先達に聞く”のご依頼を頂いた時に,助言するのはおこがましいとすっかり頭をかかえてしまった.外科医としての自分の経験を書けば,ささやかな助言になりうるかと考え筆を起こす.

II.人生の休暇と肛門側腸管皮下埋没法
今から35年前,炎症性腸疾患の手術を学ぼうとスウェーデンに留学していた時のことである.病棟で午後急に同僚がいなくなったので,どうしたのかと仲間に聞くと今日は“paper work”だと言う.論文を書くのが“work”なのである.外科医は,5時には仕事を終わり,以降は当番の医師が後を引き継ぐ.同僚たちは家に帰っては,半分家事を分担していた.そして男性外科医が育児休暇で休んでいた.私は,帰国してから味わうことのない人生の休暇と位置づけ,十分な年休期間を利用して欧州を旅した.Workaholicな迷える外科医は,これは滅びゆく国だなと感じていたが,スウェーデンは現在でも世界を牽引している国の一つである.MalmoのEkulund教授より潰瘍性大腸炎に対するmodified Hartmann’s procedureを教わり,肛門側腸管皮下埋没法として本邦に紹介し,その他の緊急疾患にも応用した1)

III.新しい出会いと経会陰・肛門的アプローチ
欧州の学会に行くと,大腸疾患では癌,炎症性腸疾患,機能性疾患が三本柱であった.日本では癌の外科治療しか見ることのなかった私には,機能性疾患は新しい出会いであった.ヨーテボリのHulten教授の紹介で,学会でその講演に圧倒された機能性疾患の世界的権威であったKeighley教授のもとに留学した.後の関西医科大学吉岡和彦教授,獨協医科大学越谷病院大矢雅俊教授との出会いも,ここで始まった.両先生とは帰国後,機能性疾患で世界に追いつき追い越すために英語で発表し討論する研究会を開始した.バーミンガムでは,手術巧者のKeighley教授より経会陰的・経肛門的手術を教わったが,これらのアプローチでの視野展開の限界も認識した.

IV.引き算の毎日と種々の手術時の工夫
帰国して総合病院の外科医にもどると,手術時にいろいろ疑問をもった.経肛門手術の視野不良を解決すべく,いくつかの肛門鏡を試作したが上手くいかなかった.当時は低位前方切除時にstapling techniqueが普及しつつあったが,staplerを肛門より挿入する時に苦労していた.そこで,挿入をスムーズにするための3弁式のK式の開肛鏡を開発した2).K式の開肛鏡を用いて,経肛門的局所切除術を行っていると直腸が下垂してくることが分かった.直腸の固定は予想外にルーズであることに気が付いた.これを利用してE式開肛器を用いてminimally invasive transanal surgery (MITAS)という術式も開発した3)
手術時の経腹的な下部直腸の視野不良の改善には,手術室でふと思いついた体位の検討を行い,最終的には現在腹腔鏡手術で一般的に行われている“水平大腿開脚位”を提唱した4).直腸癌手術時には,遊離癌細胞除去のために経肛門的な洗浄を行っていたが,手術場が汚染されるために看護師さん達に不評であった.I式の洗浄器を開発し,その効率も検討した5).当時は,直腸癌術後の排尿・性機能障害のために自律神経温存手術が行われ始めていたが,温存する自律神経周囲に癌細胞の残存がないか疑問をもった.それを確認するための検討を行い自律神経周囲に1割の症例で癌細胞があるため自律神経温存手術は注意しなければならないと警告した.その後,癌遺残例の予後を検討し,本術式は適切な手術であることも報告した6)
これらの“仕事”を日常の臨床と共に一日24時間のうちに安定的に行うには,日常臨床の時間,寝る時間,食事する時間を差し引くと早朝にデータのまとめや発表,論文の準備をしなければならないことを認識した.

V.藤田医科大学の外科医達と新しいアプローチ
大学に移動して,臨床・教育・研究を行うことになった.基礎的研究の素地がなかったので,直腸癌の臨床で自律神経温存と拡大郭清7),2000年ごろからは班会議に参加して括約筋間切除(ISR)の臨床と研究を行ってきた.ISRの班会議では,英国での機能の経験や夜中に行った小出君との剖検が役に立った.手術中にdouble staplingを行おうとしたが,水平方向に切断が出来なかった時に,奥村君が“先生,縦に切ったら”の一言でIO-double stapling techniqueが開発された8).後で文献を調べてみると,手縫い吻合の時に水平方向に縫合した流れで切断した理由以外に水平方向切断の理由がなかった.正に“コロンブスの卵”だと思った.外科医は,これまでの流儀に固執するものだと反省した.この吻合法は,術後の排便機能にも有利であることを佐藤君が証明してくれた.バーミンガムで学んだ便失禁に対する経会陰的なanterior levatorplastyを,世界で初めて経膣アプローチで直腸瘤に応用した.後にこの術式を直腸膣瘻にも応用し世界最良の成績となった9)
大上,渡辺,小西らによって本邦に導入された大腸癌に対する腹腔鏡によるアプローチは,花井君によって推進され,ロボットによるアプローチは勝野君によって本邦で初めて報告された.ストーマ脱出に対するstaplerによる治療法も,幸いに海外でも普及している.大学における働き方は,典型的な日本の外科医のスタイルであった.

VI.おわりに
ささやかな私の足跡を書かせて頂いた.外科医には,人間としてのより良い資質(heart)とart(外科手術手技),知識や経験に基づいたscienceが必要である.ともすれば,外科医はartを学ぶことに走り勝ちであるが,より自分を磨いて謙虚に患者に向き合う姿勢を忘れないで欲しいと願う.

 
利益相反
その他の報酬:ユフ精器株式会社

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文献
1) 前田 耕太郎,橋本 光正,洪 淳一,他:肛門側腸管皮下埋没法.日本大腸肛門病会誌,47: 525-529, 1994.
2) Maeda K, Hashimoto M, Katai H, et al.: Peranal introduction of the stapler in colorectal anastomoses with a double-stapling technique. Br J Surg, 81: 1057, 1994.
3) Maeda K, Maruta M, Sato H, et al.: Outcome of novel transanal operation for selected tumors in the rectum. J Am Coll Surg, 199: 353-360, 2004.
4) Maeda K, Maruta M, Sato H, et al.: “On table” positioning for optimal access for cancer excision in the lower rectum. World J Surg, 28: 416-419, 2004.
5) Maeda K, Maruta M, Hanai T, et al.: Irrigation volume determines the efficacy of “Rectal Washout”. Dis Colon & Rectum, 47: 1706-1710, 2004.
6) Maeda K, Maruta M, Utsumi T, et al.: Does perifascial rectal excision (i.e.TME) when combined with the autonomic nerve-sparing technique interfere with operative radicality? Colorectal Dis, 4: 233-239, 2002.
7) Maeda K, Maruta M, Utsumi T, et al.: Bladder and male sexual functions after autonomic nerve-sparing TME with or without lateral node dissection for rectal cancer. Tech Coloproctol, 7 (1): 29-33, 2003.
8) Maeda K, Maruta M, Utsumi T, et al.: Vertical division of the rectum by endostapler in very low colorectal anastomosis with a double-stapling technique. Min Invas Ther & Allied Technol, 8: 3-4, 1999.
9) Maeda K, Koide Y, Hanai T, et al.: The long-term outcome of transvaginal anterior levatorplasty for intractable rectovaginal fistula. Colorectal Dis, 17: 1002-1006, 2015.

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