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日外会誌. 124(6): 459, 2023

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Editorial

低侵襲手術時代における若手外科医の教育

順天堂大学 医学部下部消化管外科

坂本 一博



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外科手術は,ここ30年余りの間に大きく変化した.一つは内視鏡手術であり,1987年に行われた腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC)は,1990年に本邦に導入され,その後,急速に広まった.もう一つは,2009年にロボット支援手術機器da Vinciが薬事承認を得て導入されたロボット支援手術であり,現在は世界中で爆発的な増加を示している.私が研修医の頃には,『Great surgeon,Great incision』と言われる時代の名残りがあり,上腹部から下腹部にわたる大きな開腹創で行う手術や,できるだけ小さな開腹創で行う手術が混在していた.内視鏡手術ではポート挿入部と小開腹創だけの皮膚切開創となり,術後疼痛軽減により患者のQOL向上に大きく貢献した.また,術者の目となる腹腔鏡は腹腔内に入り,拡大された術野を得ることができ,High vision,4Kから更には8Kへと繊細な術野情報をモニターから提供してくれるようになった.
本邦におけるロボット支援手術は,2018年,2020年,2022年の保険適応術式の増加に伴い計27術式の手術が収載され,各外科領域で急速に増加している.内視鏡手術・ロボット支援手術に代表される低侵襲手術では,モニター画面を見て行う手術の利点を生かし,記録した動画を繰り返し見直すことができる.また,ドライボックスやシミュレーターで内視鏡手術の技術を向上させることも可能となった.一方,ロボット手術ではDual consoleによる手技の指導に加えて,遠隔手術支援の実証研究が行われており,通信回線を用いた手術教育・指導の準備も進められている.
日本内視鏡外科学会によるロボット支援手術導入に関する指針においても,術者条件は緩和され,若い先生が取得しやすい条件に変わってきている.一方,医療機関の体制はどうかと言うと,いくつかの解決すべき点がある.ロボット支援手術機器の費用や診療報酬の点では医療機関が導入しにくい側面があり,本邦で約600台のロボット手術支援機器が稼働していると言っても,内視鏡手術システムの普及台数には及ばない.また,ロボット手術を行う診療科が多い医療機関では,症例数に制限がかかる場合もある.
ロボット手術に関する制度が整備されつつある中,異なる環境下で,新規医療技術をいかに若手外科医に伝えていくかは,指導者であるわれわれの大きな課題である.内視鏡手術の拡大視効果で学んだ外科解剖を,従来のアプローチである開腹手術や発展目覚ましいロボット手術にいかに応用し,安全な手術手技をしっかりと伝えることの重要性を感じている.
LCが導入された頃にも,術者基準として開腹胆嚢摘出術(OC)を何例経験した若手外科医がLCを行うべきである,というような議論が行われていた.しかし,急速なLCの導入によって手術症例数がOCを凌駕したため,OCを十分に経験することが不可能な状況となり,現在ではLCから経験していくことが日常的となっている.
ロボット支援手術という急速な時代の流れの中,若手外科医への教育を真剣に考えるべきではないだろうか.

 
利益相反:なし

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