日外会誌. 124(5): 447-452, 2023
手術のtips and pitfalls
膵頭部損傷に対する膵頭十二指腸切除術
香川大学 消化器外科学 岡野 圭一 |
キーワード
膵損傷, 主膵管損傷, 膵頭十二指腸切除術, Blumgart変法, Ⅲb型膵損傷
I.はじめに
膵損傷は腹部外傷のうち2~16%に認められ,90%が交通事故などによる鈍的外傷と報告されている.膵は後腹膜に位置し,複雑な周囲解剖や膵液漏・膵炎をきたすという臓器特性から診断や治療に難渋する事が多く,適切な治療が行われなければ重篤な合併症や関連死亡を伴う.われわれが行った全国調査の結果1)では,主膵管損傷を伴う膵損傷症例の在院死亡は3%であり,手術施行例のうち膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;PD)での手術関連死亡は認めなかった.全身状態,損傷の程度,術者のスキルに応じて適切な戦略のもとに行えば,確実な治療選択肢であると考える.本項では主膵管損傷を伴う膵頭部複雑損傷に対するPDの手術手技,特に膵空腸吻合に関して解説する.
II.手術
日本外傷学会膵損傷分類Ⅲb型,American Association for the Surgery of Trauma (AAST)GradeⅤで広範な膵実質の挫滅や十二指腸損傷を伴い温存が不可能な症例でPDを選択する2).バイタルが安定していれば,術前にERCPを行うことが望ましい.
開腹時には血腫が広がり,解剖学的な把握や正確な損傷範囲の評価が難しいことも多いので注意を要する.また,膵実質はソフトであり,膵管は非拡張である.損傷部では挫滅や膵炎を伴い組織が脆弱になっている.可能なら損傷部の尾側で膵実質を結紮しておき,頭部の切除時に結紮部のやや尾側で鋭的に追加切除する事により,膵組織障害の少ない切離面と主膵管を露出する事ができる.
分割手術にするかの戦略決定は本手術を行う際のポイントとなる.Damage Control Surgeryの場合には,止血・タオルパッキングのみ行うか,損傷部摘出までを行うかを早期に判断する.膵手術の経験が少ない場合には膵液を外瘻化して,後に専門チームの応援を得て2期的な再建を選択する.専門施設においては,バイタルなどに問題がなければ1期的再建も許容される.
再建に関しては胃膵吻合を推奨する施設もあるが,術者が手慣れた方法で行うことが良いと考える.われわれは拡大鏡(2.5倍)を用いてBlumgart変法3)で膵空腸吻合を行っている.膵空腸部縫合不全のリスクは高いと考えて,主膵管吻合部には4Frのinternal short stentを留置して後壁の1針で固定している.
外傷手術では全身状態や膵炎の影響などで膵液漏や感染の頻度が高く,確実なドレナージが極めて重要になる.また長期的な全身管理を要する事があるために経腸栄養目的の腸瘻チューブを留置して栄養管理に用いる.
利益相反:なし
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