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日外会誌. 124(5): 385-387, 2023

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理想の男女共同参画を目指して

外科医の男女共同参画の実現を目指して―男性育児休業を取得した経験から―

1) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科学
2) 岡山済生会総合病院 

坂本 真樹1) , 片岡 正文2) , 仁熊 健文2) , 黒田 新士1) , 藤原 俊義1)

内容要旨
近年様々な社会で男女共同参画やワークライフバランスの重要性が指摘されているが,外科医の領域では進んでいるとは言い難い.今回,筆者は男性育児休業を取得した経験から,その問題点や解決策,今後の展望について考察したので報告する.

キーワード
男性育児休業, 男女共同参画, ワークライフバランス

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I.はじめに
最近男性育児休業(以下,男性育業)が話題となっている.その取得率は全国的に上昇傾向ではあるが,令和2年度の調査では女性が81.6%であるのに対し男性は12.6%と依然大きな差がある.その根底には性別役割分担意識と外科系医師の長時間労働があると思われる.
今回,筆者は共働きの医師夫婦として,妻が第一子出産時に男性育業を取得した経験から,男女共同参画やワークライフバランスについての問題点や解決策,そして今後の展望について考察したので報告する.

II.男性育業の取得
筆者は卒後9年目の消化器外科医で,妻は卒後8年目の麻酔科医であった.夫婦とも両親の支援が得られない状態で妻は麻酔科専門医の維持のため早期職場復帰が必要な状況であった.妻の職場復帰を支援することと,産後の体調不良や子供の急病の対応,家事・育児の負担を均等化するために男性育業の取得を検討した.男性消化器外科医師の育業取得は医中誌で検索する限り報告がなく,外科の世界ではまだ理解が不十分であり,筆者自身も当初否定的な意見や評価を受けた.それに加え筆者自身も職場への負担や手術手技の上達の遅れ,キャリア形成への影響,経済面への懸念など不安な要素が多くあった.しかし,上司や人事課,同僚と相談し検討した結果,子供が保育園に入所可能となるまでの二カ月間男性育業を取得することとした.

III.男性育業の実際とその後の変化
2019年当時は,育児休業期間中でも,「月10日以下かつ80時間以内の勤務」は可能という制度があったためこれを適応した1).妻の状態に配慮しながら80時間の勤務計画を策定し,その間手術の執刀や指導的助手,月一回の当直を行った.そのため手術手技の上達の遅れは感じず,当直することで同僚の負担を軽減することもできた.また,金銭面では,育児給付金や社会保険料の免除を受けることが可能であったため不安は感じなかった.
筆者自身は仕事を何よりも優先するという考えを持っていたが,育児休業を取得することで仕事も家庭も同等に優先するという価値観に変化した.
男性育業をとるメリットとして,①一生に一度しかない子供の成長を肌で感じることが出来る,②家事・育児能力が向上する,③家族との時間が十分に確保でき,パートナーと良好な関係を築ける,④プライベートが充実する,などが挙げられる.さらに今回は妻が産後早期に職場復帰ができ,専門医の維持や麻酔科の人材不足に貢献できた.今回の経験から,自身の勤務と育児を調節することで,ワークライフバランスの実現が可能であることと,妻の早期復帰で男女共同参画に貢献できたことを実感した.

IV.考察
女性の社会参画が推進されているが,同時に行わなければならないのが男性の家庭参画であると考えられ,そのためには男性側のワークライフバランスの意識改革と環境改善を行う必要がある.意識改革とは,diversity and inclusion,すなわち多様な人材の多様な働き方を受け入れ,一体感を持って平等に働く機会が与えられる仕組みを推進していくことである.環境改善として具体的に挙げられることは,複数主治医・担当医制度やシフト制の導入,職場環境の改善や他職種のサポート,当直や緊急時のバックアップ体制の整備,職場復帰の支援,専門医更新の猶予,上司・同僚・家族の理解,地域との連携などである.
意識改革・環境改善が進めば,性別に関わらず働きやすい労働環境,すなわちワークライフバランスを保てる環境が得られる.そうすれば仕事に充実感を感じたうえで安定した家庭生活を得ることができ,医師個々人のワーク・エンゲージメントを高めることができる.男女ともに仕事と家庭を両立することは,特に挙児希望のある・もしくは出産を経た女性医師にとっては離職しにくい環境となり,キャリア形成の一助になり得る.
労働環境が改善すれば,性別に関わらず外科志望者数も増え,昨今嘆かれている外科医師不足の解消にもつながる.また女性医師のキャリアが保たれることでマンパワーが温存されるので,結果男性医師側の労働負担の軽減にも繋がり,過重労働が問題となる医療現場にも貢献できると考える.
多様な人材の多様な働き方が求められる時代背景を見据えた改革が必要な時期にきており,今ようやく始まった男女共同参画の動きを加速させていかなければならないと考える.
筆者自身の育業の経験から,男性外科医も環境改善を行うことで育児・家事は可能である.また家庭での役割を理解し改善することができ,職場復帰後もパートナーに対する肉体的・精神的な支援が可能になると感じている.男性育業はdiversity and inclusionを推進する潤滑油となり得ると考える(図1).

図01

V.おわりに
今後は,女性のみならず男性外科医のワークライフバランスが充実し,医師として働きやすい環境が当たり前になり,皆が“充実した仕事”と“満足な家庭生活”の両方を手に入れ幸せな人生を送ってほしいと切に願う.

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省:年次有給休業取得促進特設サイト.2023年1月11日. https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuuka-sokushin/

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