日外会誌. 124(4): 316, 2023
特集
外科的冠動脈血行再建術の現状と展望
1.特集によせて
熊本大学大学院生命科学研究部 心臓血管外科 福井 寿啓 |
冠動脈バイパス術(Coronary Artery Bypass Grafting:CABG)は1960年代に欧米で開始されるようになって以来,本邦においても1970年代以降積極的に行われるようになった.しかし,経皮的冠動脈インターベンション(Percutaneous Coronary Intervention:PCI)の登場と進歩によりCABGの症例はその数および質ともに変化してきた.すなわちより多枝病変,複雑病変,低心機能症例などがCABGの対象となってきている.CABGがPCIと大きく異なるところは「病変部の末梢にバイパスグラフトを吻合し虚血の改善と心筋梗塞の予防を行う(distal protection)」という点にある.さらにCABGでは多枝病変の症例でも一期的に完全血行再建(complete revascularization)を行うことが可能であるという点にもメリットがある.現在のところCABGとPCIの適応は冠動脈病変の複雑さ,心機能や併存する心疾患,患者の全身状態などを加味しハートチームで総合的に判断することが適切であるとされている.
本邦のCABGの成績は年々向上してきており,現在では待機症例の死亡率1.0%未満となっている.近年のCABGの成績向上には,人工心肺装置を使用しないOff-pump CABG,動脈グラフトやno touch静脈グラフトの使用,on-lay patch graftingなどの技術的向上,術中・術後のグラフト評価などが理由と考えられている.それに加えて低侵襲手術(minimally invasive cardiac surgery:MICS),ロボット支援下手術などの技術的な革新も成績向上に寄与していると考えられる.また術後管理もチーム医療の普及により個々の症例にかける総合的な労力も大きく,丁寧な治療が行えていることも理由と考えられる.
今後は上述のような手術手技の発展による成績向上や再生医療の導入により,より複雑な虚血性心疾患症例に対しても外科医の対応が期待されている.本特集では現在までのCABGの道のりと今後の展望について解説していただく.
利益相反:なし
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。