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日外会誌. 124(3): 297-303, 2023

項目選択

手術のtips and pitfalls

デルタ吻合法

国立がん研究センター中央病院 大腸外科

塚本 俊輔 , 加藤 岳晴



キーワード
結腸癌, 体腔内吻合, デルタ吻合

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I.はじめに
腹腔鏡下結腸癌手術における腸管再建は,従来は体腔外での手縫い吻合や器械吻合が選択されていた.体腔外吻合は手技が確立されており縫合不全率が低く,体腔外で腸管を開放するために糞便による腹腔内汚染が少なく腸管内癌細胞による腹膜播種の懸念も少ない術式である.一方で腸管をループ状に引き出すために小開腹創がやや大きくなり,腸管授動範囲が不足した場合は腸管が体腔外まで引き出せないことや,無理な体腔外への引き出し操作によって血管が損傷することがあった.近年普及が進んでいる体腔内吻合は,腸管が大気にさらされない,小開腹創が小さくなる,腸管授動範囲が少なくてすむといった長所がある一方で,体腔内で腸管を開放するために腹腔内の糞便による汚染や癌細胞散布による腹膜播種が懸念されていた.しかし,体腔外吻合と体腔内吻合を比較したランダム化試験は少数ではあるが,短期成績に問題がないことが示されている1)2)
体腔内吻合にはいくつかの方法があるが,当科ではデルタ吻合を採用している.この吻合法は体腔内での針糸を使った操作が一切不要であり,縫合器の使用だけで吻合が完成する.そのため腸管開放時間が短くなり体腔内吻合の短所である腹腔内汚染の減少が期待できる.また,術者の縫合技術に左右されることがないために誰でも安定した吻合が可能となる.実施に際しては腹腔内汚染の減少を図るため,術前処置でピコスルファートナトリウム水和物と経口抗生剤を併用する.体腔内吻合を行う際のポート配置は体腔外吻合と同様であるが,術者の右手で使用するポートは自動縫合器を挿入するために12mmとする.本稿では結腸右半切除術の際の小腸・結腸吻合について解説しているが,結腸・結腸吻合においても手順は同様となる.ほとんどの症例で60mmの縫合器を4発使用することで吻合が可能である.
従来の結腸再建である体腔外吻合でトラブルはほとんど起こらないので,体腔内吻合を導入することにより合併症を発生させることは避けなければならない.しかしデルタ吻合は大腸外科医にとっては一般的な吻合法ではないので術前に手順を十分に理解して,可能であればラボ等でトレーニングを行った後に臨床応用することが望ましい.またデルタ吻合だけでなく体腔内吻合全体は歴史が浅く,世界的にみても長期予後に関するエビデンスが乏しいことも念頭に置く必要がある.

 
利益相反
講演料など:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,インテュイティブサージカル合同会社

図1図2図3図4図5図6図7図8

図01図02図03図04図05図06図07図08

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文献
1) Allaix ME, Degiuli M, Bonino MA, et al.: Intra corporeal or extracorporeal ileocolic anastomosis after laparoscopic right colectomy:a double blinded randomized controlled trial. Ann Surg, 270: 762-767, 2019.
2) Bollo J, Turrado V, Rabal A, et al.: Randomized clinical trial of intracorporeal versus extracorporeal anastomosis in laparoscopic right colectomy (IEA trial). Br J Surg, 107: 364-372, 2020.

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