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日外会誌. 124(1): 122-124, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(8)「手術教育のイノベーション」
5.学生からベテランまでの各世代の外科医が作り上げる大動物手術手技研修

筑波大学 消化器外科

古屋 欽司 , 高橋 一広 , 久倉 勝治 , 橋本 真治 , 宮﨑 貴寛 , 土井 愛美 , 下村 治 , 馬上 頌子 , 大和田 洋平 , 小川 光一 , 大原 佑介 , 明石 義正 , 榎本 剛史 , 小田 竜也

(2022年4月16日受付)



キーワード
大動物手術, 手術教育, 膵臓移植, 動物倫理, 屋根瓦方式

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I.はじめに
全身麻酔下の大動物を用いた手術手技トレーニングは,動物倫理の観点で徐々に制限されてきているが,代替の効かない高い教育効果がある.当教室での新しい全身麻酔下大動物手術手技研修の試みについて報告する.

II.大動物手術演習と動物倫理の課題
これまでにも,全身麻酔下の大動物を用いて手術手技を行う研修は学生や外科医を対象とした手術教育として広く行われてきた.一方で,複数回の全身麻酔手術を繰り返し行ったことが非人道的であると問題になったケースもあり,動物倫理の観点から,教育のための動物実験も,その必要性と内容を十分に吟味していくことが求められている.
令和2年8月31日には,「獣医大学における生体を利用した実習での動物の取り扱いに関する調査」があり,令和3年3月31日には文部科学省および環境省からも調査結果の通達と,適切な対応を求める指示が各獣医大学に出た1).これを受けて各大学では動物の生体を利用した教育の取り組みについて,3R原則(Replacement:代替法の利用,Reduction:使用動物数の削減,Refinement:苦痛軽減等の改善)2)に基づいて見直しがなされることとなった.医学部においても教育目的の動物実験のあり方を見直す時期になってきている.

III.大動物手術演習プログラムの修正と膵臓移植
当教室においては,学生を対象とした全身麻酔下のブタの腸管吻合を行うアドバンストな手術研修を2012年から行ってきた.しかし,前述の流れの中で,同研修の必要性を再考した.
大動物での手術研修が行われる外傷領域の報告3)を参考として,大動物での手術教育が効果的である条件として,i)普段経験することができない稀な手術,ii)病態的に素早い手技が求められるもの,iii)緊急手術のために事前に勉強を行うことが難しいもの,iv)稀な合併症へのトラブルシュート,v)普段とは異なる術野を理解する必要があるもの,vi)類似の手技がなくトレーニングが困難なもの,を挙げた.学生が行う腸管吻合の研修は,上記の内容と一致せず,実臨床での見学や食用家畜の摘出後腸管などを用いた研修でも技術的な教育効果は見込めると考えられるため,その目的のみで大動物手術研修を行うのは不適切だとの結論に至った.しかし,外科を志す学生にとってブタ生体を用いて腸管縫合をすることは,外科の奥深さを感じ,外科医の道を歩み始めるための貴重な1例となりうるとも考えており,別の研修と一緒に行うことができないかと模索した.
臓器移植分野における膵臓移植の手技研修は,全国でも年に30~50件程度4)の緊急手術であり,臓器保護や摘出など通常の外科手術とは異なる手術戦略が必要であることから,前述の条件を多く満たす内容と考えられる.当学は,1984年に日本で最初に膵臓移植を行っているが,その後は膵臓移植を行えておらず,膵臓移植再開に向けて教室を挙げて準備を進めている.そこで,脳死下臓器摘出・膵臓移植のシミュレーションと,学生の腸管縫合研修を組み合わせることで,屋根瓦方式で学生からベテランの各世代に学びのある研修プログラムが作れるのではないかと考えた.

IV.大動物手術演習プログラムの実施と振り返り
具体的には,図1のような大動物手術研修プログラムを作成し,2021年度より開始した.実験計画は動物実験倫理委員会と確認を行い,大動物への苦痛が最小限となるように配慮した.1日目は,学生(6名)を主な対象とし,座学での研修および,モデルでのトレーニングを行った後に,2頭のブタに対して,全身麻酔下のブタ腸管吻合研修を行った.ここでは,学生が1人1か所の腸管吻合を執刀し,若手スタッフ外科医が指導を行った.2日目には,脳死下臓器摘出・膵臓移植について座学で学んだ後に,ブタの手術を行った.2頭のブタに再度麻酔をかけて,まず吻合部腸管の評価を行った.再開腹および腸管摘出は学生が執刀するが,ここではレジデントや若手スタッフ外科医も参加し,学生の指導に携わった.引き続き,片方のブタでは,ベテラン外科医が指導につく形で若手スタッフ外科医が脳死下臓器摘出を執刀した.摘出臓器のバックテーブル手術および膵臓移植については,ベテラン外科医と若手スタッフ外科医が共同して手術を行った.ブタに対して複数回の全身麻酔を行って覚醒させるのは苦痛が大きいと判断されるために,膵臓移植を受けたブタについても,全身麻酔下にそのまま安楽死させた.

図01

V.研修の振り返りと今後の課題
学生のアンケートからは,腸管吻合の理解が深まった,移植手術が大変であることが理解できた,という知識面での学びのほか,先輩外科医の修練の様子を見られて勉強になった,という情動面での学びもみられた.技術面では2日間では不十分との声もあり,今後の課題でもあると考えられた.また,スタッフ外科医としても,膵臓移植に向けた手術手技の定型化に向けて手順を検討することができた点で有意義な研修となった.
今後も,学生の実習として,また膵臓移植に向けた外科医の研修として,当教室においては本研修を今後も継続したいと考えている.より洗練された研修を行うためには,プログラムのフィードバックが重要であるため,どの様に研修の成果を評価するかは今後の重要な課題であると考えられた.また,ブタを用いた大動物実習は,実験施設等の整っている大学病院では行うことはできるものの,一般病院が主体となって開催することはハードルがあると考えられる.そのため,近隣の臓器移植を行っている施設の外科医も巻き込んで一緒に同研修ができるとより効果的であり,今後の検討課題としている.

VI.おわりに
学生の腸管吻合の研修として,また膵臓移植に向けた外科医の研修として,大動物倫理にも配慮した屋根瓦方式の大動物手術研修を実施した.教えること,教わることを通じて,広い世代に十分な学びのある外科手術研修を行うことができており,今後も継続する予定である.

 
利益相反:なし

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文献
1) 環境省HP:獣医大学における生体を利用した実習での動物の取扱いに関する調査等について(結果).2022年5月2日. https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/files/n_60.pdf
2) 文部科学省HP:研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針(文部科学省告示第七十一号).2022年5月2日. https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/06060904.htm
3) Gaarder C, Naess PA, Buanes T, et al.:Advanced surgical trauma care training with a live porcine model. Injury, 36(6):718-724, 2005.
4) 日本移植学会HP:ファクトブック2021. 2022年5月2日. http://www.asas.or.jp/jst/pdf/factbook/factbook2021.pdf

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