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日外会誌. 124(1): 118-121, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(8)「手術教育のイノベーション」
4.CTデータに基づいた軟性3D気道モデルを利用した気管・気管支再建術トレーニングおよび個別化シミュレーションプログラムの開発

がん研有明病院 呼吸器センター外科

橋本 浩平 , 大村 兼志郎 , 岩本 直也 , 玉川 達 , 山道 尭 , 小澤 広輝 , 近藤 泰人 , 一瀬 淳二 , 松浦 陽介 , 中尾 将之 , 奥村 栄 , 文 敏景

(2022年4月16日受付)



キーワード
気管気管支スリーブ切除, 手術トレーニング, 手術シミュレーション, 3Dプリンター

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I.はじめに
呼吸器外科領域において,肺癌の中枢浸潤やあるいは良性の疾患でも中枢気道の切除再建が必要になることがある1)4).気管・気管支再建術の成否は,手術の根治性や重篤な術後合併症の有無につながるため,呼吸器外科医が習熟するべき重要な技術である.当院における非小細胞性肺がんに対する葉切除以上の症例数に占める気管・気管支形成の割合は,1980年代には10%から20%程度であったが,この10年ほどは数%に留まる.疾患構造の変化に伴う傾向で,全国的にも同じ傾向と考えられる.修練医の立場からすると,この重要な技術を実際の手術だけで習得するのが困難になりつつあると考えられる.また,気管支形成術の多くは定型化されているものであるが,専門医であっても分岐部形成等の頻度の低い複雑な症例が存在する2)5)6)
そこで,ラボ・トレーニングによる経験の補完が望まれるが,既存ものはリアリティーやコストの面で限界がある.献体でのトレーニングは人体そのものなのでリアリティーに問題はないが,コストは高い.ドライラボは,コストは低いが,リアリティーが十分なものは報告されていない.
研究の目的として,気管・気管支再建手技を行える実物大の軟性気管・気管支モデルを作製すること,それを再建技術習熟のプログラムに応用することとした.この目的には,気道のどの部位も手術トレーニングができるモデル(Universal training model)を開発した.本研究の二つ目の目的として,気管・気管支形成を行う患者のComputed Tomography(CT)から病変も含めたモデル(Patient-specific simulation model)を作製すること,これを患者に特化した「個別化」シミュレーションを開発することとした.

II.方法
Universal training modelの構築
まず健常人ボランティアの単純CTから,3Dのデザインを作成し硬性モデルを3Dプリントした.シリコンの鋳型を作成し,鋳型からウレタンで軟性モデルを抽出した(図1).
呼吸器外科専門医4名が模擬手術を行い5段階でモデルを評価した.
Patient-specific simulation modelの構築
外科医がソフトウエアを用いて病変をCTでアノーテーションした.アノーテーションの有り無しのCTデータからそれぞれ3Dデータを作成した.その差分で病変を3Dデータとして認識した.これにより,軟骨・膜様部含む結合織・病変の3パートのデザインを作成した.実際の患者の手術を行った術者が,模擬手術モデル上で再現できるか評価した.

図01

III.結果
Universal training model
実際のモデルと,術野を再現するための専用の固定具を示す(図2).呼吸器外科専門医による右肺上葉スリーブ切除および気管スリーブ切除が再現できることを確認した.繰り返し4回行い,再現性があることを確認した.
また,モデルの評価は以下であった.5段階リカートスコア平均値(範囲):
・術野展開   3.8 (3~5)
・硬度     3.0 (2~4)
・弾性     4.0 (3~5)
・針への抵抗  3.0 (2~5)
・結紮への抵抗 4.0 (2~5)
スコアの平均値は3を超えてある程度受容できる結果であった.針が通る抵抗が少し強いという意見はあり,改善が必要である.
Patient-specific simulation model
右上葉・右中下葉・左下葉舌区のスリーブ切除のモデルを作製して,それぞれの術者がそれぞれの手術を再現できることを確認した.

図02

IV.考察
これまでのモデルは,解剖を3Dで確認するのみで1),実際に手技を行えるものはわれわれの知る限りで報告はない.本モデルでは予定切離ラインで病変を実際に切離し,口径差の調整を準備できる(図2).実際の手技は糸が複雑に配置されることもあり,縫う順番や糸裁きが準備できるのは,視認するのみのシミュレーションではできない本モデルの強みである.
Universal training modelの展望
今後は実際に修練医に技術の向上をもたらすかを検証する予定である.最終的には体験を伴う教材とすることをゴールにしている.
Patient-specific simulation modelの展望
今後は,前向き観察研究として実際にシミュレーションが有用かを検証する.また,個別化モデルは複雑・高リスク・低頻度の再建術に特に有用と考えられるが,分岐岐部形成のように本当に複雑といえる症例のモデルを作製する.小児例では7),バリエーションも多く個別化が有用なところと考えられ今後開発を進める.最終的には,本モデルを術前支援のための医療機器(Class 1/2を想定)として開発することをゴールとしている.

図02

V.おわりに
患者のCTデータから病変も含めた軟性3D気道モデルを作製し,再建手術がモデルで再現できることを確認した.Universal training modelは教材化を通じて修練医の技術向上・手術成績向上を目指す.Patient-specific simulation modelは医療機器化を通じて,複雑症例のより良い手術計画の作成・手術成績向上を目指す.

 
利益相反
研究費:科学研究費若手研究
本モデルおよびシミュレーション法は特許出願済である.

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文献
1) Hoetzenecker K, Chan HHL, Frommlet F, et al.: 3D Models in the Diagnosis of Subglottic Airway Stenosis. Ann Thorac Surg, 107: 1860–1865, 2019.
2) Mitchell JD, Mathisen DJ, Wright CD, et al.: Resection for bronchogenic carcinoma involving the carina: Long-term results and effect of nodal status on outcome. J Thorac Cardiovasc Surg, 121: 465–471, 2001.
3) Grillo HC, Donahue DM, Mathisen DJ, et al.: Postintubation tracheal stenosis. J Thorac Cardiovasc Surg, 109: 486–493, 1995.
4) Grillo HC: Primary reconstruction of airway after resection of subglottic laryngeal and upper tracheal stenosis. Ann Thorac Surg, 33: 3–18, 1982.
5) Grillo HC: Carinal reconstruction. Ann Thorac Surg, 34: 356–373, 1982.
6) Porhanov VA, Poliakov IS, Selvaschuk AP, et al.: Indications and results of sleeve carinal resectionq. Eur J Cardiothorac Surg, 22: 685–694, 2002.
7) Shimojima N, Shimotakahara A, Tomita H, et al.: Outcomes of slide tracheoplasty for congenital tracheal stenosis in 80 children: A 22-year single-center experience. J Pediatr Surg, 57: 1205-1209, 2022.

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