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日外会誌. 124(1): 90-92, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(7)「外科発展の礎―外科志望者増加のための取り組み」
3.本学における外科志望者増加のための取り組み

1) 横浜市立大学附属病院 シミュレーションセンター
2) 横浜市立大学 消化器・腫瘍外科学

秋山 浩利1) , 小坂 隆司2) , 小澤 真由美2) , 石部 敦士2) , 渡邉 純2) , 熊本 宜文2) , 松山 隆生2) , 國崎 主税2) , 遠藤 格2)

(2022年4月16日受付)



キーワード
卒前教育, 外科医不足

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I.はじめに
わが国では外科医不足が深刻な社会問題となっており,医師偏在により外科医療の崩壊が懸念される地域も認められる.外科医不足の原因の一つとして外科医志望者の減少が挙げられるが,日本外科学会を中心に多くの施設でこの問題解決に向けて取り組んでいる.本稿では本学で卒前教育として行っている外科志望者増加の取り組みを紹介し,その効果と問題点について考察する.

II.本邦における外科医師数の推移
厚生労働省の医師統計1)によれば,総医師数は2000年の255,792人から2020年の339,623人へ20年で約30%増加したが,外科医師数は28,732人から27,946人と横ばいで,総医師数からみた外科医師数の割合は11.2%から8.2%へ減少した.同総計による外科医師数の年齢階層別の推移をみると,50歳以上の外科医師は2000年の約33%に対して,2020年では約48%まで増加しており高齢化が認められる(図1).したがって外科医が定年や退職を延長することにより減少を食い止めていると推測される.一方,2018年に新専門医制度が開始されてから5年間で外科専攻医採用数はわずかながら増加傾向にあったが,2022年は852人と2021年の904人より52人減少し,専攻医全体に対する割合も9.8%から9.0%に低下した2)

図01

III.外科医志望者数と割合
外科医師数を増やすためには,外科専攻医数を増やすことが根本的な解決策であるが,本邦における外科志望者数(率)は医学部入学前から医学部卒業までにどのように変化していくかを考える必要がある.大学進学予備校などのアンケート調査によると,医学部入学志望者は年度により多少の変化はあるが全国で約14万人,このうち「外科志望者」(外科系)は約30%といわれている.本学における新入生のアンケート調査でも外科(系)志望者は毎年約30%であり10年前と比較して大きな変化はみられていない.しかしながら6年生のアンケート調査では約10%まで低下する.新入生が考える「外科」には脳外科や整形外科なども含まれるため,一概に3分の1になったとは言えないものの医学部の教育課程の中で減少していくと考えられる.医学部6年次における外科志望割合(約10%)は初期研修医採用者数(約9,000人)に対する外科専攻医採用者数(約900人,約10%)とほぼ合致している.したがって医学部6年次から初期研修中にかけて外科医志望割合はほぼ一定で著変はみられないと考えられる.以上の事を考慮すると,外科専攻医数(外科志望者数)を増やすには,卒前教育中に外科志望者数を維持させる(減少させない)ことが重要であると考えられる.

IV.本学における外科志望者増加の取り組み
当教室では卒前教育における外科志望者増加を目的の一つとして行っている,二つの取り組みについて紹介する.
① 手術手技講習会3)
2007年より医学生および初期研修医を対象に月1回定期的に手術手技講習会を開催している.継続性を持たせるために習得度別にプログラムを作成し,結紮・縫合から鏡視下手術などをブタの皮膚・腸管,VRシミュレーターを用いて指導している.2020年までに講習会に参加した医学生は延べ1,357人で,講習会を10回以上受講し初期研修を修了した31人の進路は外科14人(45%),泌尿器科5人,脳外科2人,その他10名であった.医学部在学中より外科手術手技を継続的に経験させて外科への興味を持続させるのに有用と考えられる.
② リサーチ・クラークシップ(研究室配属)
2014年度より「リサーマインドの滋養」を目的としてプログラムを開始した.4年次の4月から7月までの約4カ月間,基礎または臨床の研究室に配属し,7月に学内発表を行っている.期間中は授業や実習は一切行わずに研究のみに集中させている.当教室では臨床データーの集積・解析を行い治療成績や予後因子について結果を考察し,本学会定期学術集会(4月)または日本消化器外科学会総会(7月)に発表し,さらに論文執筆まで指導を行っている.2014年から2022年まで29名が当教室に配属され,初期研修修了者7名中4名が外科医となり,初期研修医6名中4名が外科志望である.本実習の目的は「リサーマインドの滋養」であるが,臨床データーを診療録中心に集積・解析することにより外科周術期管理や合併症,画像診断などをより深く学ぶことが出来る.また教室配属中は教室員と接する機会が多く,卒後に自らが外科医になることをイメージし易くなると考えられる.

V.卒前教育における外科志望者増加の取り組みの効果と問題点
外科志望者を増やすには卒前教育中に行うのが最も効果的であり外科に興味を持って入学した医学生の興味を継続させ,また興味を持っていなかった学生に興味を持たせることが重要である.紹介した二つの取り組みは,前者は外科「手技」,後者は研究としての「外科学」を通して断片的な体験だけではなく,継続して外科に触れることにより興味を持続させる効果が期待出来る.この様な取り組みには教室員の労力や熱意が必要であるが現状では教室員の学生指導に対する特別なインセンティブ制度は設けられていない.医学部教員のタスクは「診療・研究・教育」とされているが,本邦では医学部教員の教育へのエフォートに対する評価が診療・教育に比較して低いため,教育熱心な教員や大学院生のボランティア精神に任せきりになる傾向がある.外科医の働き方改革が求められている状況で臨床と研究に多くの時間を割いている教室員に対して,さらに卒前教育に時間と労力を求めることは一見矛盾しているように思われるが,大学は教員に対する診療・研究・教育の成果を同等に評価するという原点に立ち返るべきである.

VI.おわりに
外科志望者を増加させるには卒前教育,特に入学時から初期臨床研修医,外科専攻医へ続く継続的なプログラムの構築が有効である.そして多くの医学部教員並びに外科医は卒前教育に携わるべきであり,教育に対する評価が正当になされる必要がある.

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省:令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況.2022年4月13日. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_kekka-1.pdf
2) 厚生労働省:令和3年度専攻医採用と令和4年度の専攻医募集について 令和3年度第1回 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会資料(令和3年9月17日).2022年4月13日. https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000833608.pdf
3) 秋山 浩利,小坂 隆司,小澤 真由美,他:夢を実現するためのキャリアパス・教育システム.日外会誌,121(6):659-662,2020.

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