日外会誌. 124(1): 73-77, 2023
手術のtips and pitfalls
大動脈周囲リンパ節郭清
帝京大学 外科学講座 深川 剛生 |
キーワード
大動脈周囲リンパ節郭清, 術前化学療法, conversion surgery
I.はじめに
80~90年代に積極的に行われていた予防的大動脈周囲リンパ節郭清(D3)は,第Ⅲ相比較試験(JCOG0501)によって有効性が証明されなかったため,行われなくなった1).臨床的大動脈周囲リンパ節転移例(No.16a2/b1)に対して術前化学療法(SI+CDDP)後にD3を行う第Ⅱ相試験(JCOG0405)では53%の5年生存率が得られたため2),少数のNo.16a2/b1リンパ節転移に対しては化学療法が奏効した場合,外科的切除の効果が期待できる.その場合JCOG0405でのプロトコール治療と同様に完全なD3を行うか,samplingに近い形で部分的な郭清に留めるのかについては議論がある3).免疫チェックポイント阻害薬が切除不能進行胃癌に対する一次化学療法に含まれ,奏効例に対するconversion surgeryを行う際にもこの術式についての理解は有用となる.
II.手術の手順・工夫・落とし穴
郭清の対象となる大動脈周囲リンパ節はNo.16a2/b1の領域.3領域(pre, int, lat)に細分される(図1).
a) Kocher受動術
結腸肝曲から上行結腸も十分に授動.助手がしっかりと十二指腸を把持し,層を展開しながら剥離をすすめる.
b) No.16b1の郭清と血管分布(図2a4))
・右端は下大静脈中央部,左端は左生殖静脈,下端は下腸間膜動脈根部.
・左腎静脈にテープをかける.
・下大静脈の左壁を露出して背側に脂肪組織を分けると第2,3腰静脈が現れる.これらは前縦靱帯の背部に入り込んでいる(図2b).
・左精巣静脈内側で背側方向に鈍的に剥離をすすめると大腰筋が現れる.ここでヘラ鈎を挿入してGerota筋膜に包まれた腎尿管組織を外側に一気に分ける(図3a4),b4),c).この内側が郭清すべきNo.16 b1latの組織である.
・大動脈前面から分枝する細い動脈は結紮(図2c).
・左腎静脈と上行腰静脈の太い交通枝がある(図2d).温存・処理いずれでも良いが,出血だけは避けたい.
c) No.16a2 pre/intの郭清(図4a4))
・大動脈前面と下大静脈との間の郭清を頭側に進める.上腸間膜動脈根部周囲の厚い神経組織は温存.左腎静脈の上縁で副腎への分枝を確認(図4b).
d) No.16a2latの郭清(図5)4)
・横行結腸を下方に牽引し腹腔動脈根部左尾側でGerota筋膜を切開すると左腎静脈が現れる(図6a4),b).
・左横隔膜脚を覆う脂肪組織から下方に剥離を進め,左副腎と大動脈左壁に挟まれた脂肪組織を郭清する.腹腔神経節はよけて郭清する.左副腎に入る動静脈は結紮しても副腎自体を切除する必要はない.
利益相反:なし
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