日外会誌. 124(1): 57, 2023
会員のための企画
「レジリエンス・エンジニアリング理論に基づく安全マネジメントへの統合的アプローチ―複雑で不確実な状況下での成功を確実にする―」によせて
大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座消化器外科学 波多 豪 |
外科手術における医療安全は,手術室における安全管理として深い関わりがあるが,外科医にとっては,入退室時や執刀直前に行う手術安全チェックリストに基づいたブリーフィングの場面が想像しやすい.手術室のスタッフを一つのチームとし,チーム全体で情報共有することにより,起きうる失敗を未然に防ぐという目的で行われている.それでは,医療における安全対策にはどのような方法があるのか?失敗を起こさないために日々のインシデントからその原因を学ぶことは,後方視的な対策として重要であるのは言うまでもない.同時に,いかに日常診療の中で安全が確保されているかのメカニズムを理解し,確実に実行することが,前向きなアプローチとして重要であると考えられている.その中で,チームや組織全体が弾力的かつ柔軟に適応するというレジリエンス・エンジニアリングの概念が,医療現場においても注目されるようになった.
本企画では,医療安全,レジリエンス・エンジニアリングに関する本邦の第一人者である,大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部の中島和江先生に「レジリエンス・エンジニアリング理論に基づく安全マネジメントへの統合的アプローチ−複雑で不確実な状況下での成功を確実にする−」というタイトルでご執筆いただいた.医療という複雑適応系と呼ばれるシステムの中でも特に臨機応変な対応を常時求められ,さまざまな職種が関わる外科手術において,その背景にあるレジリエンス・エンジニアリング理論について,その基礎から各論まで,幅広くご解説いただいた.
われわれ外科医が,より安全な医療,手術を遂行するために,どのようにチームを構築すべきか,心がけるべき心理的安全性,リーダーシップとはどのようなものかを再認識することは非常に重要である.本企画が会員の皆様にとって,日常診療の一助となれば幸いである.
利益相反:なし
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