日外会誌. 124(1): 1, 2023
Editorial
DX時代の外科医教育
国立病院機構九州医療センター 呼吸器外科 山﨑 宏司 |
Twitter,Facebookなどに代表されるSocial Networking Service(SNS)や,ZoomなどのWeb会議システムの利用が当たり前となり,世の中の情報の流れが変化した.さらに近年ではインターネット上の仮想空間の中で自分を模したアバターを通してバーチャルオフィスやチャット,ゲームなどが行われるメタバースなるものが登場するなど,新たな情報発信やコミュニケーションツールが世の中を席巻している.
われわれの世代の中にはE-mailの段階で時が止まり未だガラケーをご利用されている方もいらっしゃるのではないか.私が外科研修を始めた平成初期はインターネットが普及し始めた時代で,それらが生活や仕事のツールとして十分に浸透するのはしばらく後のことであった.内視鏡手術も始まったばかりで,動画を残す技術は一般的ではなかった.研修医は昼夜を問わず先輩医師の背中を死に物狂いで追いかけ,手術中は見えない術野を背伸びしてのぞき込み,見えなかった手術の手術記事とイラストの作成に頭を抱えた.第1助手になって初めて実際の術野が目の前に現れ,手術を覚える機会が与えられた嬉しさに震えた.
そんな昔の回想はさておき,現在は通信インフラの高速化,電子デバイスの小型化,記憶媒体の大容量化など,めざましい進歩が外科医の教育環境の改善に大きく貢献している.ポケットから取り出したスマートフォンでブラウザを開けばいつでも最新の論文を即座に手に入れることができる.日本外科学会はホームページで外科専門医共通講習/領域講習を配信するなど1),多くの分野でオンデマンド配信の教育的コンテンツを受講できる.また,手術の多くは内視鏡やダ・ビンチの高画質,大画面のモニターで行われ,手術後にいつでも動画を確認,共有することができる.さらにはYouTubeなどの動画配信サイトでは世界の著名な外科医の手術動画を好きな時に好きなだけ見ることができる.自他の手術動画を繰り返し見てイメージトレーニングすることは客観的評価とフィードバックにつながり,手術技術の向上に大きく貢献していると思われる.これらの例は外科医の成長のために大変好ましい変化であり,今後も将来にわたり有効に利用されることを期待する.
また,SNS,Web会議システムやメタバースを情報共有,管理の場として利用し,報告・連絡・相談,あるいは必要時に直ちに集まれる医師への連絡ツールとすることや,カンファレンスや回診をこれらの形式に変化させるなどの取り組みは,診療情報としての管理には十分な注意を要するが,現在直面している外科医の減少や働き方改革に対しての課題解決に繋がり,外科だけでなく医療全体の教育・診療体系の新しいモデルとなる可能性がある.
ガラケーの利用に必要な第3世代移動通信サービス(3Gサービス)は2026年までには段階的に終了するとのことである.DXの実現に強力なリーダーシップを発揮し,若手外科医に柔軟な教育指導を行えるよう,われわれアナログ時代に育った医師も最新のツールに乗り換える時期が来たのではないだろうか.
利益相反:なし
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。