日外会誌. 123(6): 611-613, 2022
定期学術集会特別企画記録
第122回日本外科学会定期学術集会
特別企画(5)「外科系新専門医制度の現状,課題そして展望」
3.大都市急性期病院の研修医と専攻医に対する意識調査から新専門医制度について考える
1) 大阪赤十字病院 消化器外科 森 章1)5) , 中村 ひとみ2)5) , 吉田 彩香2)5) , 瀧 隆史2)5) , 丸澤 宏之3)5) , 住本 真一4)5) (2022年4月15日受付) |
キーワード
意識調査, 新専門医制度, 医師地域偏在, 将来設計, 女性医師
I.はじめに
新専門医制度の目的は,専門医の質を担保することであるが,医師の地域偏在の解消も目論まれている.新専門医制度施行後4年が経過し,2022年3月に一期生が修了した.研修医や専攻医は,本制度への理解が進んだと思われる.当院では2019年度以来,年度末ごとにアンケート調査を行い,大都市急性期病院である当院の研修医と専攻医が新専門医制度を如何に考え,専門研修修了後の将来設計や地方病院勤務に対する意識調査を行っている.今回,第2回目2020年度のアンケート調査を解析し報告した.
II.対象と方法
当院の初期研修医21名と全診療科の専攻医62名の合計83名を対象にした.2021年3月,無記名調査票投函方式によるアンケート調査を行った.
III.結果
1)回答率
回答率は,初期研修医21名中21名100%,専攻医62名中50名82%,合計83名中71名(男性48名,女性23名)86%であった.
2)シーリング制度とローテーション制度
「診療科ごとの都市部専攻医数シーリング制度は良いと思うか」との質問に対して,「あまり思わない」26%と「全く思わない」28%という否定的意見が54%と多数であった.「専攻医数シーリング制度が医師地域偏在の改善に有効と思うか」との質問に対して,「あまり思わない」28%と「全く思わない」31%という否定的意見が59%と多数であった.「専門研修中の病院間ローテーション義務化は良いと思うか」との質問に対して,「大いに思う」4%と「少し思う」37%という好意的意見41%と「あまり思わない」22%と「全く思わない」23%という否定的意見45%が拮抗していた.「病院間ローテーションが医師地域偏在の改善に有効と思うか」との質問に,「あまり思わない」31%と「全く思わない」37%という否定的意見が68%と多数であった.ローテーションの良い点は(複数回答可),「各病院の専門性を学べる」61%,「各病院の地域性を学べる」54%,「研修のマンネリ化を解消できる」45%と考える医師が多く,利点を見出している.一方,「研修の効率性が向上する」7%,「専門医の取得に有利になる」6%と考える医師は少ない.ローテーションの悪い点は(複数回答可),「転居の負担」77%,「電子カルテなどシステムの相違」61%,「人間関係の構築に時間がかかる」52%という生活や労働環境面が多数であった.
3)将来設計と地方病院勤務に対する意識
「専門研修修了後の進路に不安があるか」との質問に,「大いにある」21%と「少しある」51%と不安を感じている医師が計72%と多数であった.「将来地方の病院に勤務する意思はあるか」との質問に,「あまりない」46%と「全くない」13%が計59%と多数だったが,一方「大いにある」6%と「少しある」28%という医師も計34%存在した.男女で大きな違いはなかった.「地方病院に勤務するとすれば,いつ頃が可能と思うか」との質問に対して,男性では「卒後10年」が32%と最多であったが,女性で時期が「わからない」との回答が48%と最多であった(図1A).「どのくらいの期間を希望するか」との質問に対して,男性では「2〜4年間」が35%と多かったのに対して,女性では「わからない」が57%と最多であった(図1B).「地方の病院に勤務することをためらう理由は何か」との質問に対して(複数回答可),男女で大差はなく,「転居」男性54%,女性78%,「家族の理解」男性48%,女性48%,「子供の教育」男性46%,女性39%といった家庭の問題が多数であった.「労働時間」,「待遇給料」,「専門医取得」は少数であった(図1C).「医師の地域偏在を改善するのに何が有効と思うか」との質問に対して(複数回答可),「待遇給料」42%,「大学入試の地域枠」35%,「地方病院の統廃合」30%,「指導医の確保」30%を挙げた医師が多かったが,「初期研修制度」7%や「専門研修制度」14%が有効と考える医師は少数であった.
IV.考察
新専門医制度の目的は,初期研修修了後の専攻医を育成し,各基本領域の専門医の質を担保することである.一方,専攻医が都市部の研修病院に集まり,医師の地域偏在や診療科偏在を助長するのではないかと危惧されている.平成29年と30年の厚労省資料によると,出身や大学より臨床研修を行った都道府県で臨床研修後も勤務する医師の割合が高い1).20代勤務医では60%は地方勤務の意思があり,そのうち約40%は2〜4年間を希望する一方,地方勤務の意思がない理由として労働環境,仕事内容や専門医取得の不安などが挙げられた2).
本アンケート調査は,大都市急性期病院である当院の研修医と専攻医を対象にしており,全国や他病院と比較するとその意識に偏りがあるかもしれない.また,地方病院の定義も曖昧である.その条件下であるが,多くの医師が新専門医制度のシーリング制度やローテーション義務が医師の地域偏在を改善するのに有効ではないと考えている.しかしローテーションによる他病院での経験を利点と考える医師が増えている.専門研修修了後の将来に不安を感じる医師が70%以上と多い.臨床経験を積み,家庭の事情が解決すれば,大都市の研修医や専攻医であっても将来,地方病院勤務が可能と考えている者が約1/3存在する.女性医師では妊娠,出産,育児により具体的な時間軸で将来設計を立てにくいことが推測された.コロナ禍の影響で病院見学が困難になり,情報が不足している可能がある.若手医師の将来への不安を解消することが医師地域偏在の改善に役立つと思われる.
以上から,専門医の質の向上と医師地域偏在の改善の両立に向けて方策を提言する.
1.専門研修後キャリアパスの明確化(病院群の計画的人事交流)
2.女性も男性も働きやすい社会(産休,男性育休,職場内保育)
3.指導や医療の均質化(リモート教育,診断,治療)
4.地方病院の集約化と広報
V.おわりに
当院では毎年度末に研修医・専攻医アンケート調査を行っている.今回は2020年度末の調査結果を報告した.今後も継続し,若手医師の育成と医師の地域偏在や診療科偏在の改善につながるよう努力したい.
利益相反:なし
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