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日外会誌. 123(6): 605-607, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「外科系新専門医制度の現状,課題そして展望」
1.若手外科医からみた新外科専門医の現状と展望

熊本大学 消化器外科

丸野 正敬 , 松本 嵩史 , 原田 和人 , 山下 洋市 , 馬場 秀夫

(2022年4月15日受付)



キーワード
新専門医制度, 外科専門医, 卒後教育, 卒前教育

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I.はじめに
筆頭著者は,2013年卒で,発表時は卒後10年目である.卒後8年目であった2020年度に当施設の外科専門医プログラムの申請担当者として任命され,プログラム申請に関する事務手続き,各関連施設・診療科への連絡や質問対応,所属専攻医の修了要件進捗状況の確認,プログラム応募者への連絡対応等の業務を担当した.今回,この経験を基に,当施設のプログラムの現況を振り返りながら,当施設での人材確保と専攻医教育での取り組みについて紹介し,若手外科医からみた外科専門医制度の現状と課題について発表した.

II.熊本外科専門研修プログラムの概要
熊本外科専門研修プログラムは熊本大学の外科系の5診療科(消化器外科,呼吸器外科,心臓血管外科,小児外科・移植外科,乳腺・内分泌外科)が協力して運営を行っており,基幹施設である熊本大学病院と31の関連施設にてプログラムを形成している.専攻医は3年間の研修期間のうち,原則として,1年間を基幹施設である熊本大学病院で研修し,残りの2年間を関連病院にて研修する.関連病院は,熊本県内を中心に,福岡,大分,鹿児島,宮崎など九州の近県にも存在する.関連施設のローテートについては,各専攻医の希望も聴取しながら,プログラム管理委員会で協議し,各専攻医の経験症例の状況なども確認の上,十分な手術症例を経験できるように計画を行いながら決定している.また,関連病院での2年間の研修については,1年目と2年目は異なる医療圏での研修を行うこととしている.
2018~2022年度までの過去5年間に当プログラムに登録した専攻医は42名(途中転籍者は除く)であった.専攻医はプログラム開始の時点で希望するサブスペシャルティに所属して(=入局して),研修を開始することを可能としている.これまでの専攻医の多くは開始時点で何らかのサブスペシャルティを希望する者が多かった.
これまでの登録者の出身大学は熊本大学が29名,九州内の他大学が10名であり,卒後臨床研修を行った病院は38名が熊本県内と,その多くが熊本県あるいは近県内での卒前・卒後教育を受けており,外科専攻医の人材確保においては,学生教育・卒後臨床研修において,外科医を志す学生・研修医を見いだし,その思いを維持してもらうことが重要と思われた.

III.当科での人材確保の取り組み
上述のように,人材確保においては,興味を持っている者をどのようにピックアップするか,あるいはどのように興味を持ってもらうかが重要であると考えている.当科においては年に数回程度,人材確保委員会というものを開催している.これは各関連施設の指導担当者も参加し,各施設に所属する臨床研修医の外科への志望状況を確認する会議である.この会議において,特に外科への志望が高いと思われる研修医については重点的に勧誘を行っている.
また,外科に興味を持ってもらうためには学生時代の教育,特に臨床実習で直に外科医と触れる機会が重要と考えている.臨床実習においては,できるだけ手術や手技などに参加する時間を取れるようにカリキュラムを組むと同時に,豚皮を用いた縫合実習や,腹腔鏡シミュレーター実習などを行う際には,インストラクターとして専攻医が担当するように調整している.専攻医にとっては教育に参加することができ,また学生にとっては専攻医と触れ合う機会を設けることで外科をより身近に考える機会になるものと期待している.
専門医プログラムの運営においては地域枠の学生についても配慮が必要である.日本専門医機構は,「都道府県と同意されないまま,当該医師が地域枠として課せられた従事要件を履行せず専門研修を修了した場合,原則,専門医機構は当該医師を専門医として不認定とする」としている1).外科医を志す地域枠出身の学生・研修医の関心事として,地域医療に従事する様に課されている内容と,専門性を獲得するためのキャリアプランが両立できるのかということがある.熊本県においては,専門医プログラムの基幹施設での1年間は地域枠での義務年限に組み込むことが可能となっており,また,求められる勤務先の中には当プログラムに参加している病院も多く含まれていることから,地域枠の学生でもプログラム3年間での外科専門医取得に必要な症例数は十分に達成することができるものと考えている.

IV.当科での専攻医教育の取り組み
プログラムの中で,効率的に手術症例が集まるように,基幹施設にいる1年間のうちに心臓血管外科や呼吸器外科等の他診療科を1カ月ずつローテートすることで,消化器外科以外の症例についても修練が出来るように設定している.また,毎年度末には関連病院会議を行い,その中で専攻医の症例経験の進捗状況と各施設の年間手術症例数を確認することで,専攻医の年間の達成状況をフィードバックしながら,各施設の指導医が次年度にどの分野を積極的経験させればよいか,専攻医にとっては次年度以降のローテート先の情報を確認できる状況を作り,指導者ならびに専攻医が情報を共有して,計画を立てやすくしている.
また,学術実績については日本外科学会定期学術集会での発表を励行し,専門医取得の条件となる20単位の取得および日本外科学会定期学術集会への参加が両方充足できるよう促している.近年は多くの学会がwebでの実施になっており,専攻医にとっても参加しやすくなったものと感じている.また,プログラム3年間のうちに英文での症例報告を執筆できるように指導を行っており,各専攻医とも3年間でおおよそ60~80単位の取得ができている.
その他にも,当科では年に4回ほど外科専門医試験の模擬試験を行ったり,上級医によるガイドラインの講義を行ったり,ドライボックスを用いた腹腔鏡下での結紮手技のタイムトライアルを行うなど,各専攻医が知識・技術両面において外科専門医にふさわしい能力を身につけることが出来るように教育体制を整えている.

V.若手外科医がプログラムを担当する利点
ここまで,当科におけるプログラムの現状について述べてきたが,筆者自身もまだ外科医としては修練の途中である.筆者のような若手が専攻医プログラムに加わることの利点としては,上級医と専攻医の中間の学年にいることで,情報共有をしやすい立場にいることが一番の強みと言える.外科専門医の取得要件については症例数や学術実績等,多くの点で現制度と重なることも多い.こうした立場的な近さや制度的な近さはプログラムを運営する上で,上級医と専攻医を繋ぐハブ的な立ち位置を構築するために重要であったと考える.また,筆者自身も,専攻医教育に深く携わることができたことは非常に有意義であった.

VI.おわりに
専門医プログラムを進める上では,結婚や妊娠・出産・子育て等のライフイベントを実践しながらのキャリアプランをどう考えるか,地域枠出身者がサブスペシャルティ専門医を取得するためにはどうすればよいか等,まだまだ検討すべき事項がある.そのためにはモデルケースの構築や働き方改革の推進等も必要になってくる.こうした中で,若手外科医が積極的にプログラムの運営に参加することで,専攻医が円滑に外科専門医を取得できるよう,取り組みを続けて行きたい.

 
利益相反:なし

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文献
1) 一般社団法人日本専門医機構.2022年4月1日. https://jmsb.or.jp/

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