日外会誌. 123(6): 581-583, 2022
手術のtips and pitfalls
腹腔鏡手術による直腸癌局所再発巣切除
大阪大学 消化器外科 植村 守 , 江口 英利 |
キーワード
直腸癌局所再発, 腹腔鏡下手術, 上殿動脈, 梨状筋, 仙骨合併切除
I.はじめに
直腸癌術後局所再発(locally recurrent rectal cancer: LRRC)手術では周囲臓器合併切除を伴う拡大手術が必要となることが多く1),過大侵襲や重症合併症発症が大きな問題となってきた2).本稿では特に手術の低侵襲化の観点から腹腔鏡下手術(Lap)に関して概説する.
II.理解するべき基本解剖と操作のコツ
LRRCは一般に浸潤性の発育形態を示すため十分な切除マージン確保が必要である3).背側への再発では仙骨合併切除が必要となり,側方への再発では血管のみならず筋肉や神経を合併切除する必要が生じる.これらの拡大手術の際に重要な解剖学的指標は以下の通りである.
・上殿動脈
上殿動脈は重要なメルクマールであり,第2仙椎下縁を切離する必要のある症例では,この上殿動脈を同定することで,腹側から温存すべきS1神経を確認することができる(図1).
・梨状筋 (図2)
仙骨切離で梨状筋を切離してもほとんど機能的な影響は無い.骨盤側方再発の際には,マージン確保のために合併切除を要すことがある.骨盤側方の操作時には,内腸骨系の血管を合併切除するとその背側に腰仙骨神経幹と仙骨神経が露出され,さらに神経を切離するとその背側に梨状筋が露出される.
・仙腸関節下縁
S2仙椎下縁の外側は仙腸関節下縁につながる.ただし,症例によっては仙腸関節下縁が第2仙椎下縁より尾側に位置しているものもあり,注意が必要である.予定仙骨切離ラインを実際の術野で同定するには,岬角からの距離に加え,総腸骨動脈の分岐部からの距離も参考にしている.距離はやや長くなるものの,総腸骨動脈分岐部からの距離を測定して反映させる方が正確性が高い.
III.腹腔鏡下での拡大手術の要点
われわれのグループでは低侵襲化の観点からLRRCに対して,2012年よりLapを開始した.手術適応に関しては開腹手術と同様の基準を用いている(表1).手術操作に際しては,高い止血力を持つ独エルベ社電気メスVIOⓇに搭載されているソフト凝固が有用であり,止血に活用している.また,組織切開・切離には主に超音波凝固切開装置を使用している.開腹手術では尿管に通常の尿管ステントを留置していたが,Lapでは触知出来ないことなどから発色尿管ステント(Stryker社,Infrared illumination system:IRIS) 挿入を標準としている(図3).
IV.おわりに
LRRC手術に対しては,腹腔鏡下手術は有用な治療選択肢の一つと思われる.腹腔鏡下手術の拡大視効果によって詳細な解剖の認識が容易になったことは,手術精度の向上や,高い教育効果につながることが期待される.
利益相反:なし
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