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日外会誌. 123(6): 513-515, 2022

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理想の男女共同参画を目指して

令和3年度(2021年)全国医学部長病院長会議男女共同参画推進委員会報告より

横浜市立大学学長 

相原 道子

内容要旨
全国医学部長病院長会議男女共同参画推進委員会は大学病院に勤務する医師の男女共同参画に対する意識調査を実施した.その結果を基に2021年度に男女共同参画推進に必要な取り組みの提案がなされたので報告する.

キーワード
男女共同参画, 全国医学部長病院長会議, ワークライフバランス, 意識改革

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I.はじめに
医学生の女性比率が上昇すると共に毎年多数の女性医師が誕生している.全国医学部長病院長会議(AJMC)の男女共同参画推進委員会は,大学病院に勤務する医師が性別を問わず勤務を継続し,医師や研究者としてのキャリアを積むことのできる体制構築を推進するため,活動を行ってきた.2020年度から2021年度は,唐澤久美子委員長のもと,大学病院に勤務する医師の男女共同参画に対する意識調査を実施し,その結果を基に男女共同参画推進のために必要な取り組みの提案がなされた.本稿ではその内容の一部を紹介し,提案について考える.

II.男女共同参画に対する意識調査
回答者は5,003 名 (男性61.3%,女性38.1%)であり,役職は教授18.6%,准教授12.1%,講師15.0%,助教28.5%,医員9.1%,専攻医5.7%,その他10.9%であった.年代は30歳代33.7%,40歳代34.1%と,併せて67.8%を占めた.50歳代以上は21.2%,20歳代は11.0%であった.既婚者は76.9%だった.調査では,ワークライフバランスの実態と,男女共同参画についての意識を尋ねた.
平均労働時間は,男性では12時間以上15時間未満が50.3%と最多であるのに対し,女性では9時間以上12時間未満が46.2%と最多であった.宿直やオンコールの担当割合は女性の方が低かった.家事に要する時間は,男性は1時間未満が61%と多くを占めたが,女性は1時間以上2時間未満33%,2時間以上3時間未満21%であった.育児分担割合は,女性では100%が31.8%,80%以上100%未満が55.2%と合わせて87%に達したのに対して,男性は40%以上60%未満が32.5%,10%以上40%未満が28.9%だった.介護時間は職位に関わらず男性に比べ女性の方が長時間であり,女性では職位の低い者ほど介護時間が長くなる傾向があった.
ワークライフバランスでは「仕事の負担が大きい」が82.5%,「時間に追われ余裕がない」が61.6%であった.「バランスがとれていない」「どちらかといえばとれていない」を合わせた回答割合は男性の42.1%,女性の35.9%と,どちらかと言えば男性のほうに多かった.診療科別では,バランスがとれていない,どちらかと言えばとれていないと回答した合計の割合が50%を上回ったのは,男性では,救急科(54.9%),産婦人科(54.2%),泌尿器科(52.8%),外科(52.5%),小児科(50.9%)であり,女性では外科(56.5%),救急科(55.5%)であった(図1).外科は男女ともにバランスがとれていない割合が高かった.
ワークライフバランスに必要なものについては,職場での意識改革と理解73.7%,社会全体の意識改革と理解67.6%,経済的な余裕56.3%,働き方改革(勤務時間の短縮)50.8%,自身の意識改革50.5%,家庭生活を支援する社会基盤の充実37.3%,配偶者・パートナーの意識改革と理解36.3%などがあげられた.

図01

III.男女共同参画に向けての提言
委員会では調査結果を踏まえ,男女共同参画に向けての下記の提言を行った.1.性別役割分担意識の是正,2.長時間労働の是正,3.家庭生活を支援する社会基盤の充実,4.経済的基盤の充実.
女性医師が妊娠・出産・子育て・介護を行いながら大学病院や医学部でキャリアを積むためには,依然として根強い「家事,育児,介護は女性の仕事」といった意識の改革が,社会や家族だけでなく女性医師自身においても必要である.それに加えてそれらの負担を軽減し医師としての活動を支援する社会インフラの整備を促す働きかけと,それを利用することに対する女性医師本人や家族の精神的ハードルを下げることが重要である.一方,社会インフラを利用しながら診療や研究を続けるには経済的基盤の充実がなければ不可能である.同時に,女性医師だけでなく男性医師の長時間労働を是正するための取り組みが行われなければ,男女間の不公平感が増大し,かえって女性医師にとっての職場環境が悪化することになる.これらの総合的な解決と上司や周囲のワークライフバランスに対する理解があって初めて,男性医師も女性医師もワークライフバランスの改善に繋がるといえる.

IV.おわりに
本稿は165ページに亘る報告書の紹介であり,詳細は報告書を参照されたい.医学部および大学病院で男女共同参画を推進し,性別に関わらずワークライフバランスの改善を図るためには,意識改革とともに常態化している医師の長時間労働の是正が必須である.また,今回の調査では研究に費やせる時間についての調査はなかったが,研究時間の確保は昇進における男女共同参画の推進に重要である.2024年から施行される医師の働き方改革に向けて,それぞれの大学における実効性のある対策を期待したい.

 
利益相反:なし

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文献
1) 全国医学部長病院長会議ホームページ.2022年5月6日. https://ajmc.jp/activities/result/gender-committee/

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