日外会誌. 123(5): 492-494, 2022
定期学術集会特別企画記録
第122回日本外科学会定期学術集会
特別企画(3)「男女を問わず外科医が輝き続けるために」
3.東邦大学ダイバーシティ推進センターの活動
東邦大学 医学部外科学講座呼吸器外科学分野 東 陽子 , 伊豫田 明 (2022年4月14日受付) |
キーワード
男女共同参画, ダイバーシティ, キャリア形成
I.はじめに
男女共同参画時代の到来によって,医学部新卒者における女性の割合や女性医師数は増加し続けており,外科診療科を専門とする女性医師数も約20年の経過で5.5倍となった1).一方,30代若手医師の診療科選択をみると,男性医師が外科診療科を選択する割合は女性医師と相反するように年々減少しており1),新卒者の外科離れが深刻化している.本学の医学生に対して行われた「男女共同参画に関するアンケート」2)では,医師としてのキャリア継続を不安視する理由として,性別問わず労働条件・環境や結婚・子育てが多く回答されていた.また,キャリア継続のための工夫として,理解者のネットワーク作りや診療科の選択・転向が多く挙がっており,外科離れの一因となりうる医学生の問題意識が浮き彫りとなった.
新卒者の外科離れは喫緊の課題であり,外科をより魅力的なものとし,性別問わず外科医がキャリアを継続するための環境改善に取り組む必要がある.そこで本企画では,多様性(Diversity)が求められる新時代に対応すべく開設された,東邦大学ダイバーシティ推進センターの活動について紹介する.
II.東邦大学ダイバーシティ推進センターの歴史
東邦大学は1925年に帝国女子医学専門学校として創立され,女性に対する医療・生命科学教育に積極的に取り組んできた歴史を有している(図1).そのような背景から,2008年に女性医師支援室,2009年に男女共同参画推進室を開設,2012年にはそれらを統合し男女共同参画推進センターへと発展させたが,女性の妊娠出産に加え,男女の育児,療養,介護など,より多岐に渡る職場支援が求められる時代が到来し,従来の画一的な対策では対応が困難となった.そこで2017年に東邦大学ダイバーシティ推進センターへ名称を変更し,性別問わず多様なキャリア形成・研究活動をサポートするための支援策を多く打ち出してきた.現在,片桐由起子センター長を中心に,副センター長5名,ダイバーシティ推進委員21名,コーディネーター1名,事務局1名で活動しており,性別・学部・職位ともに非常に多彩なメンバーで構成されている.私自身も2018年からダイバーシティ推進委員を拝命し,活動を続けている.
III.キャリア支援
準修練医制度は,2010年に本学独自のキャリア支援策として導入された.子育てや介護など様々なライフイベントにより通常勤務が困難となった医師のための新たな短縮勤務形態で,本学レジデント,シニアレジデント,大学院生の他,過去に本学での研修歴や勤務歴を有し再度修練を希望する医師も対象としている.週3.5日勤務のうち1日は自宅勤務も可能で,特に準修練医期間の2分の1が修練期間として認められる点は,キャリア継続を希望する医師にとって重要なポイントである.制度導入初期の2011年度には6名だった準修練医数は2021年度には49名まで増加,現在本学所属の女性医師における準修練医の割合は約15%を占めるまでになった.その他,妊娠期間のみ着用するマタニティ白衣を貸与するマタニティ白衣貸与制度など細やかなニーズにも対応している.
IV.研究支援
研究活動支援員派遣制度は,研究者のライフイベントによる研究中断やペースダウンを回避すべく,研究業務を補助する支援員を派遣する制度である.研究活動支援員のスキルや研究者のニーズに沿って,定期・不定期・短期集中雇用など様々な活用法が可能となっている.その他,学外の研究者を招聘したセミナー主催に対する研究セミナー招聘支援制度,本学研究者が研究代表者として行う外部研究機関との共同研究に対する共同研究強化支援制度,英文校閲経費支援制度(若手女性研究者のみ対象)など,本学研究者の研究活動をサポートする様々な支援が充実している.医学部におけるこれらの研究支援制度利用者は,2015~2021年度累計で約7割を女性が占めており,女性研究者による研究活動の活発化が伺える.また,このような研究活動の多様化に対応すべく,センター専属のメンターによる支援制度を設け,随時研究活動に関する相談ができるような体制も整えている.
V.子育て支援
勤務時間中の育児サポートは,性別職種を問わずキャリアを継続するうえで非常に重要であり,本学の子育て支援は全教職員を対象に展開している.ベビーシッター育児支援制度として,本学が公益社団法人全国保育サービス協会による承認を受け,ベビーシッター派遣事業割引券を発行している.また,2010年に施設内併設の病児保育室「ひまわり」を開室し,保育園に通えない教職員の病児を受け入れている.生後4カ月から小学3年生まで幅広い年齢層に対応し,年齢に応じた給食も提供する.看護師と保育士が常在し,小児科医とシームレスな連携をとる事で病状に応じた対応が可能となっている.
VI.おわりに
私自身,職場環境に恵まれ外科専門医,呼吸器外科専門医,学位を取得し順当にキャリアを形成してきたが,ダイバーシティ推進委員としての活動の中でキャリア継続を不安視する医学生を多く目にする.しかし,本企画をはじめ多様なキャリアプランに関する議論や取り組みが多くの学会でなされており,性別・年齢問わず外科医が大きく飛躍できる時代へ変わりつつあると実感している.前述のような大学レベルでの支援制度の他,医局レベルでの診療・教育体制整備など,様々な取り組みによって多様な外科医のロールモデルが誕生する事が,外科分野のさらなる発展へ繋がると思われる.今後も呼吸器外科医として修練を続けるとともに,東邦大学ダイバーシティ推進委員・医局スタッフとして外科医の環境改善に取り組んでいきたいと思う.
謝 辞
東邦大学医学部外科学講座呼吸器外科学分野スタッフの先生方,東邦大学ダイバーシティ推進センター片桐由起子センター長はじめスタッフの皆様に心より感謝申し上げます.
利益相反:なし
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