日外会誌. 123(5): 489-491, 2022
定期学術集会特別企画記録
第122回日本外科学会定期学術集会
特別企画(3)「男女を問わず外科医が輝き続けるために」
2.持続可能社会における外科医の働き方男女ともに輝き続けるために必要なこと
東北大学病院 総合外科 柏舘 俊明 , 宮城 重人 , 戸子台 和哲 , 藤尾 淳 , 宮澤 恒持 , 佐々木 健吾 , 松村 宗幸 , 金井 哲史 , 西牧 宏泰 , 亀井 尚 , 海野 倫明 (2022年4月14日受付) |
キーワード
男女共同参画, 持続可能社会, 家庭運営, 働き方改革
I.はじめに
Sustainability,持続可能社会という言葉が世に定着して久しい.医師国家試験合格者の3人に1人が女性となった現在,われわれ外科医が持続可能な働き方をしていくためには,男女ともにワークライフバランスのとれた生活を送ることが望ましい.日本の女性医師の現状,自分自身の実生活での取り組みと,持続可能な働き方をしていくために必要なことを提言したい.
II.各国の女性の労働参加の現状
欧米主要国と日本における15~64歳の女性労働参加率の推移をみると,一貫してスウェーデンが70%を超える高い水準で推移し,次いでドイツ,英国が同程度で続いている1).日本については,2013年頃から上昇速度が加速しており,2019年ではスウェーデンとは依然として差が認められるものの,ドイツ,英国と同程度となっており,米国,フランスより高くなっている1).日本を含め,各国の子育て世代の女性就業率は,子供のいない世帯よりも低い水準にあり,特に日本では6歳未満の子がある世帯で女性就業率が低くなっている2).
III.女性医師の現状
米国の現状について,Association of American Medical Collegesの2018年の報告では女性医師の割合は35.8%と報告している3).日本の現状について2018年医師・歯科医師・薬剤師統計4)では,総数に占める女性医師の割合は21.9%と報告している.年齢階級別にみると,29歳以下では女性医師の割合35.9%と,米国とほぼ同程度となっているが,年齢が上がるにつれて低下していき,60歳代では10.9%,70歳以上では9.6%となっている.診療科ごとの状況をみると,女性医師の割合が皮膚科54.8%,産婦人科44.5%,眼科42.4%,麻酔科40.9%と高い科もみられるが,それに対して外科は7.1%と非常に低い状況である.いわゆる外科系の科の一つである産婦人科では女性医師の割合が4割を超えていることは注目に値する.
日本医師会の女性医師の勤務環境に関する報告5)では,女性医師の休職理由について,最も多いものは出産・子育てと報告しており,年齢が上がるにつれて女性医師の割合が低くなっていく原因の一つとなっている可能性がある.出産・子育てを理由とした休職を減らすことができれば,女性医師の割合の低下を抑制し,もっと女性医師の力を活用できるようになると思われる.同報告によると,子供の緊急時の対応については,常勤,非常勤などの勤務形態によらず女性医師本人が休暇を取るなどして対応した割合が最も多かった.子供を預ける場合の預け先は,「親・親族」が最も多く,「夫」の2~3倍に上っており,家庭運営への男性の参加が十分とは言えないことが示唆されている.
こうした現状を踏まえて自分自身の実生活での取り組みについて報告する.
IV.自分自身の実生活での取り組み
筆者は消化器外科医で大学病院勤務,妻は地域の拠点病院に勤務している.そして小学生の娘が一人いる.夫婦ともに両親の支援が得られない状況にある.
まず一つは家事への取り組みである.すべての家事は分け隔てなく分担するようにしている.ポイントとしては,これは夫の仕事,これは妻の仕事と決めつけないことで,より公平な家庭運営への参画が可能となる.
二つ目は子供の迎えや緊急時の対応である.迎えについては,手術などその日の仕事の内容を考慮して,より帰宅しやすいほうが帰宅している.緊急時も基本的には同じように仕事の内容を考慮して対応しているが,これには同僚の協力,上司の理解が不可欠である.幸いにして,筆者も妻も理解のある職場に勤めているが,現実には急な休みなどを言い出しにくい雰囲気の職場もあると思われる.
そして三つ目は専門医取得などのキャリア形成についてである.持続可能な仕事にはキャリア形成も重要と考え,計画的に協力体制を敷いている.夫婦それぞれの取得すべき専門医,指導医などの資格について,年度ごとに目標を定め,取得時期や試験,参加すべき学会,講習会などの日程が重ならないように計画を立て,その期間の家事負担の軽減に努めている.
夫婦間でそれぞれの働き方について十分な意思疎通を図り,また家事を公平かつ柔軟に負担することで,家庭運営と仕事の両立を可能にすることができているものと考えている.しかし,これには同僚の協力や上司の理解が不可欠である.家庭運営と仕事の両立が,外科医のみならず社会全体の普遍的な目標としてとらえられるようになれば,もっと働きやすく,かつ休みやすくなり,持続可能な仕事となると思われる.
V.外科医として男女ともに持続可能な働き方をしていくために
自分自身の実生活での経験をふまえて,われわれ外科医が持続可能な働き方をしていくために必要なことを提案すると,①勤務時間のオンオフの明瞭化.勤務しなくて良い時間が決定されることで,家庭運営は効率化できる.②カンファレンスの勤務時間内の実施.2024年の働き方改革の医師への適用6)に対応するためにも,あえて時間外にカンファレンスを行う意義は低い.また,コロナ禍にあって,多くの会議はオンラインで可能であるということが判明した.webカンファレンスを活用することで,全員が同じ場所に集合する必要がなくなる.③組織の意思決定への女性の参加.現状ではわれわれ外科医の意思決定機関は多くが男性で占められている.男女ともに公平な仕事をしていくためには,意思決定に女性の考えを取り入れるべきである.④手術,教育を受ける機会の確保.持続可能な仕事にはキャリア形成も重要である.キャリア形成と家庭運営を両立させるためには,タスクシフティング,タスクシェアリングによる時間外労働の軽減と,診療時間内でのスキルアップ,研鑽時間の確保が重要である.
VI.おわりに
男女ともに輝き続けるためには,ワークライフバランスのとれたSustainableで公平な働き方改革が必要と考える.それには男性の積極的な家庭運営への参加を当然のこととする共通認識の形成が重要である.われわれ外科医の意識改革から社会全体の意識改革へとつなげていき,社会全体で男性の積極的な家庭運営への参加が進めば,特に子育て世代の女性の就業率上昇に寄与する可能性がある.
利益相反:なし
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