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日外会誌. 123(5): 471-473, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「外科医の働き方改革と特定行為研修修了者の協働」
2.特定行為研修修了者の導入による医師の時間外勤務の変化

1) 医療法人横浜未来ヘルスケアシステム戸塚共立第1病院 消化器センター
2) 昭和大学 消化器一般外科

山崎 達哉1)2) , 村井 紀元1) , 福島 元彦1) , 星野 光典1) , 嘉悦 勉1) , 松井 伸朗1)2) , 三重野 雅裕1) , 御船 曜1) , 横山 朗也1) , 青木 武士2)

(2022年4月14日受付)



キーワード
特定行為研修, 時間外, 外科医, 診療看護師

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I.はじめに
特定行為研修制度は修了した看護師(以下,特定看護師)が手順書により38行為の特定行為について医師の判断を待たずに行える制度であり,2014年に厚生労働省から「特定行為に関わる看護師の研修制度」が創設され2015年に研修制度が開始された.2024年に行われる医師の時間外労働の上限規制において医師のタスクシフティングによる時間外労働の減少が期待される1).特定行為研修は2022年現在,各施設で履修を行える.その中で,大学院で修了後,38行為21区分行える特定看護師を診療看護師(以下,NP)と呼称している.当院でも2017年より循環器関連などを除いた21行為18区分に関して特定行為研修を行っており,修了した特定看護師をtNSと呼称している.当院では,2017年7月から特定看護師を導入し医師とともに診療にあたっている.今回,われわれは特定看護師の導入により医師の時間外労働の変化を検討した.

II.背景
1,診療体制
当院は28万人の人口をもつ神奈川県横浜市戸塚区に位置している二次救急指定病院である.病床数148床,手術室2室で稼働している.現在消化器センターには6名の常勤医師が在籍しており,外来,手術を行っている.その中で2017年7月より消化器センターにはNP 3名が配属され,2021年3月よりICUにtNS 2名の特定看護師が配属されている.
2,NPならびにtNSの役割
当院では朝8:00に病棟患者のカンファレンスをNPとともに行っている.その後,病棟回診を医師とともに行い,ドレーンの抜去,薬剤や点滴の代行処方,カテコラミンの投与量の調整,人工呼吸器の調整,血液透析器の管理,橈骨動脈ラインの確保,末梢留置型中心静脈カテーテルの挿入ならびに中心静脈カテーテルの抜去を行っている.また,医師が手術に入ったときに病棟患者の急変対応や医師への報告なども行っている.ICUに配属されているtNSの役割としては病棟患者の人工呼吸器の調整,挿管チューブの調整,カテコラミンの投与量の調整,末梢留置型中心静脈カテーテルの挿入,中心静脈カテーテルの抜去,ドレーンの抜去を行っている(図1a,b,c).
3,NPならびにtNS導入による変化
NPならびにtNS導入前は医師が手術,外来の後に病棟のドレーン抜去や指示出しを時間外に行っていたものを,導入後は手術,外来を行っている間,代行でNPならびにtNSが行うことにより時間外の業務が減少した.
4,NPならびにtNSの労働体制
当院での取り組みにおいて,医師と同様の時間NPが勤務した場合,NPの時間外負担が増大する.そのため,当院ではNPのシフト制をとっている.NP 3人を早出,日勤,遅出に分け各勤務帯毎に引き継ぎを行いNPの負担が出ないように調整を行っている.
ICU勤務のtNSについては通常の看護師のシフトに組み込まれ,2交代勤務シフトとなっている.

図01

III.方法
1,対象
NPならびにtNSの導入前2017年1月〜3月,導入後2021年1月〜3月における入院件数,手術件数,平均在院日数,常勤医師時間外勤務時間について比較検討した.
2,分析方法
NPならびにtNS導入前後の入院件数,手術件数,平均在院日数,常勤医師時間外勤務時間をJMP pro16を用いて対応のあるt検定にて検定を行った.有意水準として両側検定のp値が0.05以下の時に有意とした.
3,倫理的配慮
本研究は 戸塚共立第1病院の医学研究倫理委員会の承認を受けて実施した. 承認番号(2021−4).収集するデータは患者が特定できないように保管した.

IV.結果
月間入院件数(p=0.1),手術件数(p=0.15)平均在院日数(p=0.15),と2021年,2017年と有意差を認めなかった.常勤医師一人あたりの平均時間外2017年106時間,2021年89.2時間と有意に減少していた(p=0.04).
結果は表1に記載する.

表01

V.考察
2024年に本邦では医師の時間外労働の上限が設定される.現状では医師の労働時間は1,860時間を超えており2),医師の時間外労働を減らすためには業務軽減が急務である.業務軽減の一貫として厚生労働省から特定行為研修制度が提唱された.それに先立って,NP教育が2008年より開始された.法律的根拠においては改正保健師助産師看護師法において特定行為研修が制定された.当院では,診療の一部を分担することでNPならびにtNSを利用している.合併症などが起きた場合在院日数が延長するが,導入前後で平均在院日数は変わらなかった.そのため,特定看護師(NPならびにtNS)が医師の代わりに診療の一部を分担することは在院日数の延長にはつながらないと考えられた.
医師の時間外労働を減らす方法としては,手術件数や入院件数を減らし,業務減少により時間外労働を減らす方法も考えられるが,診療の一部を特定看護師が担うことにより,手術件数や入院件数を減らすことなく時間外労働の減少が行えると期待される.今回の検討はそれを証明するものと考えられた.

VI.おわりに
特定行為研修修了者が,担当医が事前に出した手順書に従い病棟業務を行うことで,外科医のタスクシフトが可能となり時間外労働の減少が認められた.今後,特定行為研修者と外科医の連携を行うことで入院件数,手術件数を減らさずに働き方改革が可能であると考えられた.

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省.時間外労働規制のあり方について③.2022年5月31日. https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000467710.pdf
2) 厚生労働省.医師の勤務実態について.2022年5月31日. https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000677264.pdf

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