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日外会誌. 123(5): 465-467, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「COVID-19は外科医療にどのような影響を及ぼしたか―現状と展望―」
6.COVID-19感染流行が臓器提供と脳死下・心停止後臓器移植に及ぼした影響と今後の展望

1) 藤田医科大学 移植・再生医学
2) 藤田医科大学 公衆衛生学
3) 神戸大学 肝胆膵外科学
4) 長崎大学 移植・消化器外科
5) 東京大学 心臓外科
6) 水戸医療センター 臓器移植外科
7) 東京女子医科大学 消化器・一般外科

伊藤 泰平1) , 剣持 敬1) , 太田 充彦2) , 蔵満 薫3) , 曽山 明彦4) , 木下 修5) , 江口 晋4) , 湯沢 賢治6) , 江川 裕人7)

(2022年4月14日受付)



キーワード
COVID-19, 臓器提供, 臓器移植

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I.はじめに
脳死下・心停止後臓器移植では,移植医やドナーコーディネーターが提供病院に移動,臓器摘出を行い,搬送を行う.2020年初頭より国内でCOVID-19の感染流行が拡大したが,人の移動や物流が制限されるため,この移植医やコーディネーターの移動も制限され,感染拡大地域では十分な移植医療が提供できない可能性が懸念される.
COVID-19が本邦の臓器提供および脳死下・心停止後臓器移植に及ぼした影響を明らかとするとともに,COVID-19の感染予防の見地から臓器チームごとに機材を搬入することから生じている大量の機材と人が移動する現在の臓器摘出体制の改革について提言する.

II.方法
令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金厚生労働科学特別研究事業として「新型コロナウイルス感染症流行時に移植実施施設において脳死下・心停止下臓器移植医療を維持推進するための調査研究」を実施,①臓器移植実施の実態調査と ②提供施設の地域を限定して摘出機材集約化と外部委託の試験運用による機材・人流削減の可能性を検証した.①日本臓器移植ネットワークホームページから脳死下・心停止後臓器提供数の推移を把握するとともに,国内の脳死下・心停止後臓器移植実施206施設(心臓11,肺10,肝臓25,膵臓18,小腸12,腎臓130)に対し,COVID-19感染流行期における臓器摘出体制に関するアンケート調査を行った.
②2021年2月から11月に愛知県,静岡県の臓器摘出事例に限定し,藤田医科大学で保有する胸腹部臓器摘出機材の貸出を行った.貸出摘出機材の運搬,洗浄,滅菌,梱包は日本ステリ社に外部委託した.

III.結果
①臓器移植実施の実態調査
改正臓器移植法施行以降,脳死臓器提供件数は右肩上がりに増え,2019年は98件と過去最高であった.しかしながら,COVID-19の感染流行が拡大した2020年は68件と減少に転じていた(図1).特に年30件前後であった心停止後臓器提供は9件と激減した.さらに,2021年も2020年同様に,脳死臓器提供件数69件,心停止後臓器提供件数10件に留まっていた.
各臓器移植実施施設へのアンケートは206施設中177施設から回答があり,回答率は85.9%であった.COVID-19感染流行中に腹部臓器移植施設を中心に177施設中85施設(48%)で一時的に移植手術を中止(心:0%,肺:0%,肝:4%,膵:22%,腎:78%)していたことが明らかとなった.また,移植プログラムを継続している施設でも112施設(63%)は特に制限なく移植医療を行っていたが,34施設(19%)は医学的理由により延期が難しいと判断される症例のみに制限して移植を実施していた.結果,2020年の脳死下・心停止後臓器移植件数は2019年と比べ60~70%程度(前年比,心:64%,肺:73%,肝:72%,膵:57%,腎:71%)に減少していた(図2).
②臓器摘出機材の貸出
2021年4月から2021年11月まで,脳死下臓器提供6件に対して,臓器摘出機材貸出を実施した.貸出チームは全臓器にわたり,10チームであった(表1).貸出機材を使用した摘出操作に特に大きな問題はなく,全例,問題なく移植手術を行うことができた.
貸出シミュレーション実施後,機材を使用された臓器摘出チームに対してアンケートを実施した.貸出後のアンケートでは,10チーム中6チームが,摘出チームの人数削減が可能であったと回答し,全チームが負担軽減につながったと回答した. 摘出チームの人員が削減できた場合,この人員削減分の交通費を摘出機材の運搬,洗浄,滅菌費用から引くと,ほとんどの場合が,1~3万円のコスト増で済んだ.事例4では,交通費削減により,むしろ,摘出機材の運搬,洗浄,滅菌を外部委託した方が,摘出にかかる費用が全体的に安く済むことが示された.

図01図02表01

IV.おわりに
各脳死下・心停止後臓器提供数と移植数は6〜7割に減少しており,COVID-19感染流行拡大が移植医療に大きく影響を及ぼしていることが明らかとなった.一方で,機材・人員削減,負担軽減を目指した機材貸出試験運用が,今後の摘出体制のモデルケースになると考えられた.

 
利益相反:なし

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