日外会誌. 123(5): 452-455, 2022
定期学術集会特別企画記録
第122回日本外科学会定期学術集会
特別企画(1)「COVID-19は外科医療にどのような影響を及ぼしたか―現状と展望―」
2.COVID-19治療での二次救急,三次救急,新患紹介を完全閉鎖することによる通常外科治療の影響―公立病院としてどのように戦って,外科医療にどのように影響したか?
1) 市立札幌病院 心臓血管外科 中村 雅則1) , 永坂 敦2) , 三澤 一仁3) , 館石 宗隆5) , 西川 秀司4) (2022年4月14日受付) |
キーワード
COVID-19, 外科手術数, 入院制限
I.はじめに
COVID-19感染による医療体制の変化が通常医療に対する影響は強く,世界各国で手術の延期中止が余儀なくされた1).今回は,日本の感染地帯の一つである札幌市で,COVID-19治療のための公立病院としてのベッドコントロール,それによる通常医療の影響,その後の対応をretrospectiveに検討したので報告する.
II.札幌の感染状況
まず,札幌市のCOVID-19新規感染数は,雪まつり旅行者の1例目感染からの1波(2020/3/12ピーク1日あたり9名),2波(2020/5/4ピーク同29名),3波(2020/11/19ピーク同197名),4波(2021/5/13ピーク同499名)と徐々に増加し,オミクロン株の6波(2022/2/5ピーク同2,369名)を除くと,4波α株感染が最大感染者数(133人/人口10万人.政令指定都市統計上第一位)となり,5波δ株(2021/8/14ピーク同322名)はそれ以下で収まった.重症感染者数も同様に増加し4波で最大1日38人に人工呼吸器,ECMOの治療が行われた.対応に苦慮した4波までの経緯を提示する.第2波は老人施設のクラスターを機に急激な感染者の増加で,未知の感染症対策の元,入院施設の確保が求められた.第3波も老人施設のクラスターから始まり,DMATも動員され,軽症者は施設内で治療し,重症者のみを入院させる方針となり,入院は施設で見きれない重症者,透析患者等が大半だったが,市内全体の病床数はぎりぎり確保された.しかし,第4波は,若年者へ感染が進み,さらに重症肺炎でも入院できない,救急車も入院先を探せないなど「札幌市の危機」となった.3波に比し4波では,重症患者,入院患者のピークが新規感染者ピークから遅延しており,中等症,重症の占める率が高く,かつ入院が確保できなかったことを示した.4波では,COVID-19で入院治療が必要だが施設がなく入院できない患者(入院待機患者)は,徐々に増加し,感染者ピークの翌日の5/14からは即日入院が必要なS患者が入院困難となり,5/28には入院待機患者は250人を超え,S患者の消失まで約一カ月を要し,この期間に6名の自宅待機中の死亡が発生した.
III.当院の対応
当院は許可病床672床(一般588,救急38,精神38,感染症8)の公立病院で,当院のCOVID-19入院は,1波では,感染症指定病院として感染症病棟で対応,2波の患者の増加で一般病棟を使用し患者を受け入れ,2020/5/7には71床を確保.3波のピーク11/25には,救急15を含め110床まで増床し,入院待機患者なく経過.しかし,4波では,完全にCOVID-19対応としたICUも常に満床近くとなり,ネーザルハイフロー管理が必要な中等症患者も多く,一時的に満床の日が継続した(図1A).さらに,当院は,人工呼吸器患者,透析患者,さらに認知症患者を含む要介護患者を多く受け入れるため,100床確保には,看護スタッフの確保にコロナ病床の数倍の非稼働病床が必要であり(図1B),3波,4波では,それぞれ利用可能病床は291,283床と低下,2次3次救急,新患紹介を約2カ月ずつ完全中止し対応した.
IV.外科症例数の推移
以上の結果,手術件数は,コロナの波ごとに大幅に減少した.各月のコロナを除いた一般新入院患者数は,全手術数,全身麻酔数ともに,それぞれR=0.967,0.969と強い正の相関関係を認めた.さらに,全紹介患者数と全手術数,全身麻酔数もともにR=0.931, 0.936と同様に強い正の相関関係を認め(図2A),また,これを時系列でみると,各月の全手術数と紹介患者数は,良くシンクロし,元のレベルに戻るまでに時間を要し(図2B),入院,外来の紹介患者の制限が入院患者数,手術数に大きく影響した.一方で,救命病棟入院者数,非コロナ救急車搬入数と全身麻酔数の関係は,前者でR=0.685, 後者でR=0.812と救急車搬入数は全身麻酔手術数と強い正の相関関係を認めた.また,手術数とリハビリ処方数をみると,3波以降では,コロナ患者のリハビリを積極的に行うことでのリハビリ数の維持が図られたが,波ごとに手術が低下することでリハビリ数が抑制された.
まとめると,手術数は,全麻局麻とも,新規紹介患者数,新規入院患者数とよく相関しており,コロナ感染の繰り返しによる入院制限,新患紹介制限,さらに救急の制限は,手術数の低下を引き起こし,回復に時間を要し,リハビリ等の他部門の抑制も引き起こした.
V.保健所の対応
このような病院一般診療機能の縮小に対し,保健所は,感染対策教育と経済的支援で病院数を21から40と倍にし,病床数も432から635と大幅に増やしただけでなく,透析,要介護,妊婦,精神疾患のコロナ患者が入院できる多くの一般施設を開拓した.さらに4波の危機で入院待機ステーションが開始されたが,その機能も1波ごとに拡充し,5波以降は即日緊急入院患者が激減した.各病院の入院患者の見える化をしたCovid chaserと入院調整班の努力で5波以降は各施設均等に入院し,4波で250名にまでなった入院待機患者は,2021/6/25以降は遅延なく入院可能となった.
VI.考察
外科症例が減ることはその場の収益だけではなく,外科医のmotivationの低下による医師の移動,今後の働き方にもかかわる.さらに施設基準,手術器具の更新の遅れが生じ,患者の流れの回復はやはり時間を要し,地域医療構想にも大きく影響する.一方で,2020年のCOVID Surg Collaborative1)では,世界中のCOVID-19 pandemicの手術延期が報告され,benignでは8割以上が延期されている報告があり,これは社会問題であり,今後さらなる検証が必要である.
VII.おわりに
パンデミックでの一般診療の停止は外科診療に大きなダメージを与え,回復にも時間を要した.特に紹介患者の受け入れ停止が大きな影響を与えていた.公立病院として市民を守るCOVID-19治療は重要な任務と考えられるが,行政を中心とした各領域の協力で各病院の一般診療を守ることも重要と考えている.
利益相反:なし
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