日外会誌. 123(4): 363-368, 2022
手術のtips and pitfalls
空腸漿膜パッチ術
淀川キリスト教病院 救急・集中治療科 加藤 昇 |
キーワード
空腸漿膜パッチ,十二指腸潰瘍穿孔, 縫合不全
I.はじめに
空腸漿膜パッチ術は,半周程度の十二指腸全層欠損に対して狭窄を来さずに閉鎖できる簡便な術式として,主に外傷領域で選択されてきた.十二指腸潰瘍穿孔では報告が少ないが,われわれは大網被覆術後の縫合不全による大きな穿孔部を低侵襲に閉鎖する術式として,空腸漿膜パッチ術が有効であった1例を経験した(図1,図2)1).
II.症例呈示
自験例では図3,図4,図5,図6,図7に示す如く,空腸ループを結腸後で挙上し,約3cm径と大きい穿孔部辺縁の十二指腸全層と空腸漿膜筋層を3-0ブレード吸収糸による約8針の粗な1層の結節縫合で閉鎖した.約2カ月後の内視鏡検査で,穿孔部は空腸(パッチ)の漿膜の露出なく,周囲から粘膜が進展して狭窄を伴わずに閉鎖していることを確認した.
III.考察
十二指腸潰瘍穿孔に対する術式として,大網被覆・充填術を用いた単純閉鎖が第一選択であるが,術後縫合不全では自験例の如く大網が脆弱化して使用できず,穿孔縁の炎症が極めて強いことが多いと思われる.空腸漿膜パッチ術は,デブリドメントを行わずに空腸ループを用いて穿孔部の閉鎖が可能である.腸切離の必要がなく,手技も簡便であり,2回目以降の手術時に穿孔部を低侵襲に閉鎖する術式として有効であると考える.また,初回手術時においても,大網被覆・充填術が困難な程大きな穿孔では考慮される術式と考える.
動物実験である原法2)では,serosa-to-serosaすなわち空腸漿膜筋層と十二指腸全層欠損周囲漿膜筋層の縫合による閉鎖であるが,十二指腸潰瘍穿孔においては穿孔部周囲の炎症が極めて強く,膵に近接することもあり,穿孔縁は全層縫合で構わない.強く固定糸を締めすぎて脆弱な穿孔縁を裂いて二次損傷をきたさないよう注意が必要である.また,原法ではantecolicaであるが,retrocolicaでも構わない.Tension freeで自然に無理なく穿孔部を覆うことが重要である.周囲のドレナージは適切に行う.
循環動態不安定などの低侵襲とするべき全身状態では,他に余計な手技は行わない.われわれは幽門閉鎖術(吸収糸による結節縫合数針+減圧胃瘻併設)を付加したが,有効ではなかった.空腸栄養瘻造設の付加は有用と思われる.
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