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日外会誌. 123(3): 278, 2022

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手術のtips and pitfalls

「A型急性大動脈解離に対するFrozen elephant trunk法」によせて

国際医療福祉大学成田病院 心臓外科

真鍋 晋



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A型急性大動脈解離に対する緊急手術は,これまで極めてリスクの高い手術であると考えられてきました.術式を選択する上でも,まずは救命を優先し,置換範囲を限定した上行大動脈置換術を選択することが一般的でした.ただこの場合の問題点として,急性期の救命に成功した場合にも,遺残した弓部以下の解離が再拡張し,遠隔期において再手術がしばしば必要となりました.しかし近年では,その治療成績も目覚ましく改善しています.日本胸部外科学会学術調査の報告では,A型急性大動脈解離手術の入院死亡率は2000年の18.4%から2017年の11.2%まで低下しています.こうした治療成績の改善に伴い遠隔期を見据えた手術術式の選択がなされ,手術全体に占める上行大動脈置換術の割合は50%から39%まで低下しています.
今回とりあげたFrozen elephant trunk法は,オープンステントと呼ばれる開胸手術用のステントグラフトを弓部~下行大動脈に留置した全弓部置換術です.特に急性大動脈解離手術では,広い範囲に外科的介入ができることが最大の特徴です.再拡張の多い弓部~下行大動脈の偽腔をステントが圧着することで,再拡張の予防効果が期待されています.ただ一方で,急性期の脊髄虚血や,遠隔期のステント断端による内膜亀裂(stent graft induced new entry: SINE)など独自の問題点も指摘されています.オープンステントは2014年に薬事承認が得られ,以後わが国でも急速に普及しつつあります.比較的新しい術式であるため,細かな手技については未だ試行錯誤の部分もあり,定型的な手技が確立された分野ではありません.そこで山﨑琢磨先生には本術式の基本となる手技を解説していただきました.次に岡村誉先生には,特に煩雑とされる弓部分枝の再建に関して,人工血管を開窓して再建を簡略化するfenestrated法について解説していただきました.どちらの先生にもイラストを多用した詳しい解説をしていただきましたので,明日からの診療の一助としていただけると幸いです.

 
利益相反:なし

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