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日外会誌. 123(3): 211, 2022

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Editorial

癌免疫療法の功罪

大阪国際がんセンター 腫瘍内科

西田 尚弘



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私は元々消化器外科のトレーニングを積んだが,今は主に癌薬物療法の世界に身を置いている.この機会に,昨今発展が目覚ましい癌免疫治療に関して,そのメリットと,一方で生じている複雑な問題に触れたいと思う.
2014年前後の免疫チェックポイント阻害剤の登場以来,特に肺癌,皮膚癌,消化器癌などの領域を中心に,免疫療法の高い有効性が次々と明らかとなってきた.従来の治療レジメンは大きく修正を余儀なくされ,ここ数年,癌薬物療法は免疫療法を中心に正にパラダイムシフトを迎えている.その効果は,これまでの化学療法の上乗せでみられた生存期間中央値を数カ月延長するという次元ではなく,効果がある集団に対しては,年単位で予後を延長することも難しいことではなくなってきた.重要なことに,この治療は単剤で行った場合,一部を除いて重篤な副作用はあまりなく,しかも非常に長い期間に渡って効果が持続することが知られている.
このように一部の患者で劇的な効果が期待できる癌免疫療法であるが,最近気になるのは,長期に渡って免疫治療の恩恵を享受した患者が,再度病状が悪化し,最期が近づいた時に,かつての成功体験に囚われ,今の厳しい状況を受け入れられなくなってしまうことである.わかりやすく言うと,もう一度一発逆転の治療があるのではないかと期待してしまうのである.どこまで一般化できるかはわからないが,一度は死の淵から生還した患者が,そのような気持ちになることは想像に難くない.人間の生きようとする意欲は果てしなく,それは言うまでもなく尊いものではあるが,癌が進行し,避けようがない事実に直面した時,時としてその執着が当人をひどく苦しめてしまうことになる.
あくまで完治が不可能なケースに限ってのことだが,薬物療法によって無増悪生存期間(PFS),全生存期間(OS)を伸ばすことが,たとえその得られた期間が本人にとって快適なものであったとしても,本当に人間の幸せにつながるかということに関しては,今後,もっと多面的な議論が必要になってくるはずである.なぜなら積極的な延命は,本人にとって,ますます最期を迎えることの受容を難しくする側面を持っているからである.
とはいえ,どのような治療を受けるかは患者次第である.私自身は,医療に携わる者として,その治療が患者のQOLを損ねない範囲で,できる限り当人のメリットになるものを提供したいと思う.しかし,やがて治療手段がなくなった時,当人がそのことを受容できるようにサポートするのも医師の役割である.医師は医療という科学技術の行使者であると同時に,そのことが患者に及ぼす心的な影響にも責任を持たなければならない.他人事のように書いてきたが,その辺りのことにしっかり向き合うことが,将来必ずやってくる自分の死を自分自身が受け入れるためのヒントになるのではないかと思っている.

 
利益相反:なし

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