日外会誌. 123(2): 200-204, 2022
手術のtips and pitfalls
CUSAを用いた肝離断
東京女子医科大学 消化器・一般外科 川本 裕介 , 本田 五郎 |
キーワード
CUSA, excavation, intersegmental plane, cone unit
I.はじめに
胸腹部臓器に対する外科的切除術においては,しばしば適切な剥離層(avascular plane)に沿った鈍的剥離操作が用いられる.この適切な剥離層の見極めには視覚だけでなく触覚も必要であるが,肝実質切離に限っては,昨今の系統的肝切除術におけるICG染色法1)の普及が示すように,視覚のみに頼って切離面が決定される傾向がある.しかし,実は肝臓内にも適切な切離面(剥離層)はある.一定以上の太さのGlisson枝による錐状の血流支配領域はcone unitと呼ばれ,それぞれのcone unitの間には,比較的太い肝静脈は走行するが横断するGlisson枝は存在しない2).この肝臓内の適切な切離面はintersegmental plane(IP)とも呼ばれており,われわれは超音波外科吸引装置(Cavitron ultrasonic surgical aspirator;CUSA)を用いて,視覚および触覚によってIPを見極めて迅速に切離する手技を標準化して行っている3).
肝実質内の脈管(Glisson枝と肝静脈)の走向には一定の法則があり,この法則を頭に入れておくことで,肝実質に埋まって見えない脈管が末梢に向かって分岐する方向を“読む”ことができる.これによって,たとえ部分切除の場合であっても,できる限りIPに沿った肝離断面を選択する.また,Glisson枝の無いIPでは物理的な抵抗値が低いため,CUSAの円筒型金属製チップの先端を脈管の中枢側から末梢側に向かって引き抜く要領で,その外側面を切離線にこすりつけるように動かす操作(back scoring technique)によって肝実質を切離すると,金属製チップの先端はIP内に誘導されやすく,視覚情報と照らしながら切離操作を進めることで,適切な面を迅速に切離することができる.IP内を走行する肝静脈に対しては,分岐方向を読んで,CUSAをその中枢側から末梢側に向かって動かすことで,股裂き損傷を回避しつつ切離面に露出することができる.
本稿では脈管の分岐方向の読み方とback scoring techniqueのtips and pitfallsについて解説する.
利益相反
講演料など:Integra Japan株式会社
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