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日外会誌. 123(2): 154-158, 2022

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特集

Corona禍で大きく変わった学術活動,After Coronaでどう舵を切るか

2.史上初の完全Web開催を通して考えるこれからの学術集会のあり方

慶應義塾大学 外科

北川 雄光 , 尾原 秀明

内容要旨
第120回日本外科学会定期学術集会はコロナ禍のため史上初の完全Web開催となった.質疑応答の方法などの課題も残ったが,医学部生,研修医,通常は様々な事情で現地参加が困難な会員などを含めて大幅に参加者は増加した.今後は,医師の働き方改革推進も考慮して現地参加を基軸としながらも演者や座長であってもリモート参加を可能とするハイブリッド開催を標準とすべきである.

キーワード
定期学術集会, 完全web開催, ハイブリッド形式, オンデマンド配信, コロナ禍

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I.はじめに
本学外科学教室100周年記念と同時に第120回日本外科学会定期学術集会を主催させていただける栄誉を胸に刻み,教室員,同窓会員が一丸となって準備を重ねて迎えた2020年,新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大により様相は一変した.当初,思い描いていたものとは全く異なる完全Web開催という形で学術集会を終えて,これからの学術集会のあり方について私見を述べたい.なお本項は文献1)に掲載した内容を著者自身が改変,加筆したものである.

II.異例の定期学術集会延期から完全Web開催までの経緯
2019年に発生した謎の肺炎は,瞬く間に世界へと広がり2020年2月3日にはCOVID-19によるクラスターを発生したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号が横浜へと入港した.その後事態は日を追うごとに深刻化していった.2月28日,われわれは4月以降開催される全国規模の基本領域学会としては先頭を切って4月から8月への会期延期を決定し,同時に現地参加とリモート参加のハイブリッド形式とすることを宣言した.この時,森正樹理事長をはじめ,日本外科学会役員の皆様に温かいご理解をいただいたことには,あらためて感謝の意を表したい.この当時,ハイブリッド開催は誰もが未経験であったが,8月であれば準備は可能であろうと判断した.また,参加者の交通宿泊手配などへの影響を回避する目的でも早期に延期を決断した.その約1カ月後,本邦におけるCOVID-19感染拡大は第1波のピークを迎え,4月7日には東京,神奈川,埼玉,千葉,大阪,兵庫,福岡の7都府県に緊急事態宣言が発令され,4月16日には対象が全国に拡大された.この日は,奇しくも本来4月に予定されていた第120回日本外科学会定期学術集会の会期初日であった.われわれはこの4月の時点ですでに,8月においても現地開催を併用するハイブリッド開催は困難であると考え,「完全Web開催でどこまでできるか,挑戦しよう」という目標に切り替えた.しかし,日本外科学会事務局,われわれ主催校,学会運営会社いずれもが全く未経験の完全Web開催には多くの課題が山積していた.

III.現地開催に近い完全Web開催にするために考えたこと
当時,すでに完全Web開催を余儀なくされたいくつかの学会では,事前登録されたパワーポイントデータのみをオンデマンド配信する開催形式が主であった.この形式では質疑応答などがないため臨場感が欠如し,実際に参加登録者数が激減する学会も散見された.学術集会では発表の緊張感,臨場感に加え,双方向の議論により新しい人間関係や学術的交流を構築することが重要である.本学術集会では,これを可能な限り実現するため,司会,演者は予定された時間に自身が通信可能な場所の遠隔地からWeb会議システムを用いてセッションに参加し,全17講演会場のプログラムをリアルタイムでライブ配信することとした.しかし,主催者も参加者も全く慣れない中で通信環境障害やそれに伴うセッション時間の遅延等,多くのトラブルが生じることを想定し,実際にはプログラム上予定していた会場数の倍の34スタジオを設置することですべてのセッションが日程表通りに開始できるようにした.また,それぞれのセッションに担当の教室員を配置し,進行を管理することとした.海外演者についても,当初来日を予定していた発表者のうちの約8割の発表が完全Web開催により実現した.Live discussionへの参加については,時差を考慮した時間帯(ヨーロッパでは夕方セッション,北米では午前など)とすることで,参加を促した.また今回新たにWeb-Discussantを設け,海外を含め,活発な討論を行うことを目指した.現在では,ごく一般的になったこうした形式も,当時は皆で話し合いながら,試行錯誤の上考案したものである.

IV.初のライブ配信への不安と準備
口演発表は全て音声付きスライド動画の事前登録とし,各スタジオよりオペレーターが登録済の動画を配信することで,通信障害によるセッションの遅延防止策を講じた.スライド動画作成マニュアルを発表者向けに案内したが,PCの機種やパワーポイントのversionによってうまく音声収録ができない状況が生じたため,相談窓口を設け,丁寧に個別対応を行った.実際に提出されたスライド動画のうち,スライド中に動画が含まれる発表(とくにビデオセッション)等では,動画再生中に音声が途切れるなどの不具合があることが事前チェックで判明し,ライブ配信の会期直前2週間で,全ての登録スライドをチェックするという膨大な作業も発生した.一方,質疑はリアルタイムで行うこととし,司会,演者はWeb会議システムにて,双方向の議論の実現を試みた.
今でこそ普及したが,当時,ライブ配信での完全Web開催はまだ一般的ではなく,セッションごとに教室員が担当し,司会,演者向けにWeb会議システムへのテスト接続を兼ねたオリエンテーションを実施した.私自身をはじめ,教室員より本学術集会の開催趣旨ならびにセッションの進行方法について説明し,完全Web開催への理解を促した.会期当日までに,希望がある場合には,セッションごとにWeb会議システム上で事前打合せを実施し,さらに会期当日には最終確認のための直前リハーサルも行い,万全を期した.ライブストリーミングは動画共有サイトを利用することで,安定したサーバー環境の下,画質を落とさずにセッション動画の配信を可能とした.聴衆からの質問はチャット形式で受け付け,司会者が適宜質問を取り上げる方式をとった.ただし,司会をしながら同時にストリーミング画面でのチャットを確認するのは煩雑となるため,ここでもチャット担当の教室員を配置した.
本学術集会に先行して行われたライブ配信を伴う完全Web開催の学会では,視聴サイトへのアクセス制限によるサーバー負荷や同時アクセス数の超過によりサーバーダウンが発生していた.これらのトラブルを回避するために,サーバーの容量を増強し,負荷を分散するサイト構築に努めた. また,視聴におけるセッション間での「バーチャル会場移動」が煩雑であるなどの問題点が指摘されており,今回は,一旦ログインしたのちは,日程表をクリックするだけで自由に会場を出入りできるシステムを採用した.実際の画面レイアウトや構成等,私自身も含めて主催校メンバーが何度も確認し,最適化を図った.特設Webサイトのデザインもなるべくわかりやすく工夫し,まるでポケットプログラムやアプリを片手に会場を見て回れるような感覚の実現を目指した.

V.企業協賛の状況変化と完全Web開催の特性を考慮した予算配分
完全Web開催となったものの,幸いセミナー協賛企業からは現地開催とほぼ同数の支援ならびに協力が得られた.これは,企業側も当時の特殊な状況を勘案してくださったものと感謝している.実際の視聴者数については,各セミナーにはむしろ通常より多い視聴者があった.一方,企業展示はバーチャル展示という形式で協賛を募ったが,協賛企業は約半数に止まった.実際に医療機器などを手に取って体験する展示についてはWeb開催の大きな弱点であることは間違いない.また,今回日本外科学会120周年を記念した歴史展示や,Society5.0における外科学の未来像を各種の人工知能技術関連企業の展示で構成するAIパークなどを企画していたが,現地での展示ができなかったことは大変残念であった.将来は,アバターを応用した展示場体験などがWeb開催でもできる時代が来るものと予想する.
今回の特殊事情の中での収支予測は大変困難であった.参加登録数は予測不能であり,企業協賛も展示企業を中心に減少するため総収入の減少が危惧された.一方,海外からの招待者にかかる経費や各種のイベントへの支出はなくなるため,その分を安全なWebシステム構築に投入した.また,完全Web開催となったことで,コンセプトビデオ,COVID-19緊急セッションに使用するドキュメント映像,歴史展示をビデオで代替するなど映像関係を強化した.完全Web開催でも参加者に生き生きとしたメッセージが伝わるように,通常以上に映像制作にある程度の投資を行うこととした.

VI.積極的な事前広報活動
8月のお盆と重なる会期でどのくらいの参加登録があるか,大変不安であった.そこで学術集会のメインテーマや注目すべきセッションなどを中心に事前の広報活動を強化することとした.
今回の学術集会では「命と向き合い 外科医として生きる」という例年とは異なるメインテーマを設定した.われわれ外科医は様々なリスク,苦悩や葛藤を乗り越えて成長し,命と向き合う喜び,やりがいを自らの手で掴んできた.外科学,外科医療を取り巻く環境が大きく変化する中で,これからの外科医がどのように生きていくべきかを皆で考える機会とするため,会員のみならず医学部生や初期臨床研修医にも参加してもらうことが今回の大きな目的の一つであった.現地開催であれば,先輩医師に連れられて医学部生や初期臨床研修医が参加することも期待できたが,完全Web開催ではそれも不可能になった.したがって医学部生や初期臨床研修医にどのように情報を伝えるかが大きな課題であった.そこで本学会初の試みとしてエムスリー(m3)社,朝日新聞社と提携し,事前に学術集会の内容を積極的に広報することとした.
会期2日目の第120回記念式典では,100名以上の応募者の中から6名の医師を選出し,「未来を担う外科医からのメッセージ」としてスピーチを企画していた.その企画の一環として,彼らと森正樹理事長,会頭である私の座談会を行い,その様子を開催初日に朝日新聞に掲載した.m3社では理事長,会頭インタビューで学術集会のテーマや完全Web開催の構想を紹介し,上級セッションの司会者にも協力を仰ぎ,注目すべき論点の紹介などを含めて合計52ものコンテンツを会期前にWeb配信した.また,ディベートセッションで論点とすべき項目の募集なども行った.これらm3社のコンテンツに85,000件以上のアクセスがあったことが注目度,期待感の向上につながったものと考えている.さらに,医学部生,初期臨床研修医はm3サイトの会員登録情報と連携することで,煩雑な手続きなく無料参加登録ができるようにした.

VII.予想を大きく上回ったライブ視聴,参加登録者数
最終的に例年を5,000名以上上回る21,112名の参加登録をいただいた.おそらく普段は参加しにくい遠隔地の会員や若手医師,女性会員などの参加が増加した結果であると推測している.実際,子供を送り迎えする車の中から車を停止させて発表していた演者の姿に私自身も驚きと感動を覚えた.
今回は「完全Web開催」と銘打ったものの,実際には厳重な感染対策を施した紀尾井町カンファレンスの小さな「第1スタジオ」から三木谷浩史さん,中村祐輔先生,北島康介さん,杉山愛さん,池上彰さん,田中ウルヴェ京さん,Peter Fitzgeraldさん,忽那賢志先生など特別講演者の皆様にライブで講演をしていただきリアルタイム配信を行った.私もこの第1スタジオから会頭講演を行ったが,少人数ながら教室員が「聴衆」となってくれたおかげで臨場感が生まれ,現場での拍手も講演者にとって大きな励みとなった.今回の学術集会のメインイベントとして最も力を入れてきた「記念式典」では,全国の外科医の皆様によるオーケストラや歌唱,未来を担う外科医からのメッセージ,「未来のための今:横浜宣言」の編集動画をTBSアナウンサー石井大裕さん,元フジテレビアナウンサーの木佐彩子さんの司会進行でテレビ番組のようなライブ配信をできたことも功を奏した.この記念式典のために竹内まりやさんが直筆でメッセージ,歌詞を書いてくださった「いのちの歌」を全国の外科医が合唱した場面で司会の石井さんが思わず見せた感涙は,まさにライブ配信ならではの臨場感,感動を巻き起こしてくれた.
COVID-19緊急企画のセッションでは,米国からリモート発表していた演者が,患者さんの急変で呼び出されるシーンも配信され,想定以上の緊迫感に満ちたセッションとなった.森理事長作詞,森理事長のご友人である南こうせつさんの作曲,歌唱によるCOVID-19と闘う医療者への応援ソングも皆に勇気を与える素晴らしいものであった.
実際どのくらいの視聴があったのかを集計してみると第120回記念式典は最終的に2,763名,私の会頭講演も2,451名に視聴いただける結果となり,現地開催では不可能な数字を達成した.また今回は例年の数倍となる439名の初期臨床研修医,349名の医学部生が参加登録した.これも通常の現地開催では到底達成し得ない数字であり,事前広報活動が奏功した結果であったと確信している.
会期後は,すべてのセッションの発表データとセッション全体のライブ映像をアーカイブ化し,2カ月間閲覧可能としたが,閲覧回数第一位の演題は何と2,749名の閲覧数,ポスターでも1,035名の閲覧数を獲得していた.さらにQ&A機能によって事後も演者との質疑応答を可能にして,学術交流を深め直接顔の見えないやりとりの中で,演者の顔写真やプロフィールもご希望に応じて掲載するシステムも活用した.また,今回はアーカイブ期間における視聴者からの投票で様々なアワードを設けたこともアーカイブ期間の視聴を活性化できたものと考える.期せずしてまさに新しい形の学術集会を体験することとなった.

VIII.これからの学術集会のあり方
コロナ禍により,多くの学会が完全Web開催もしくはハイブリッド開催となる中で,ある意味では複数の学会に移動を伴わずに参加できるようになった.しかし,医師の働き方改革が必須となる中で,内容が重複した学術集会,研究会が多すぎるのではないかとの声も聞かれる.どの学会に参加すべきか,本当に必要な学術集会はどれなのかを,もう一度見直すことが重要である.完全Web開催の実施により,一万数千人に及ぶ人の移動,集合を行うことなく,ある程度質が担保された学術的交流を行うことができることも証明された.一方,直接会って会話を交わしながら形成される人間関係や学会出張での「旅の思い出」の大切さもあらためて痛感した.今後ポストコロナ時代においては現地参加を基軸として,一方で演者や座長も事情によってはリモート参加が許容されるハイブリッド開催が標準となることを期待したい.現地参加を義務付けるのは,「賑わい」を求める主催者側の都合であって,旧来の形式に戻ることがないように願いたい.むしろ主催者は,ハイブリッド開催でも現地参加したい学会にする努力を行うべきである.国全体のデジタルトランスフォーメーションの推進により,Web構築のコスト低減や双方向性のやりとりの利便性向上も急速に進むことが期待される.

IX.おわりに
今回コロナ禍という予想外の事態に,開催延期,開催形式の大幅な変更などにご理解ご支援をくださった日本外科学会のすべての会員の皆様,森正樹理事長をはじめとする日本外科学会役員,事務局メンバーの皆様,日程変更にも快く応じてくださった講演者の皆様,初めてのWeb開催にもかかわらず大きなトラブルなく運営を行ってくださった日本コンベンションサービスの皆様に心から感謝の意を表したい.また,COVID-19に大揺れになる大学病院での診療を継続しつつ,目まぐるしく変化する状況に翻弄されながらも懸命に,献身的に準備を進めてくれた教室員に深甚なる謝意を表する次第である.
これをきっかけに,未来を担う外科医の皆様があるべき学術集会の姿をさらに追い求めていただけることを期待したい.

 
利益相反
役員・顧問職:平田医院,医療法人慶洋会ケイアイクリニック,医療法人社団愛友会上尾中央総合病院
講演料など:小野薬品工業株式会社,大鵬薬品工業株式会社,中外製薬株式会社
奨学(奨励)寄附金:中外製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,株式会社ヤクルト本社,旭化成ファーマ株式会社,大塚製薬株式会社,小野薬品工業株式会社,株式会社ツムラ,エーザイ株式会社,株式会社大塚製薬工場,株式会社メディコン,武田薬品工業株式会社
寄附講座:中外製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社
その他報酬:小野薬品工業株式会社,ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社

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文献
1) 北川 雄光 , 尾原 秀明 :第120回日本外科学会定期学術集会の完全Web開催を体験して.臨外,76(4): 494-499, 2021.

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