日外会誌. 123(2): 144, 2022
会員へのメッセージ
新専門医制度の光と影
日本外科学会専門医制度委員長,名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学 小寺 泰弘 |
私は外科医に憧れてはいたものの,自分がそれにふさわしいとは考えておらず,内科医となる自分をイメージしていた.しかし初期研修に選んだ病院で外科志望者が足りなかったために,先輩に「内科医にはじっくりと物事を考える習慣が必要で,君には無理だ」と諭され,この評価は間違っていると感じながらも,ここで首肯しさえすれば憧れの職に就けるという流れに身を任せてしまったのであった.
このことの良し悪しはともかく,わが国では基本的には自分が生涯仕事をする診療科を自分で選択することが可能である.しかし,これでは人気がある診療科に人が集まり,診療科偏在が起きるのも当然である.また,卒後の初期研修先もマッチングの結果次第ではあるが,概ね自分の思い通りになる世の中になった.後期研修以後については本人や病院の意向に加えて地域全体の状況を反映した人事を行うのが医局制度であったはずだが,様々な弊害もありこれが必ずしも機能しなくなると,人気病院に医師が集中して地域偏在が起きるのも必然である.
この状況を放置すれば,医師が不足する地域では医師の働き方改革を実現するのは不可能と思われることから,厚生労働省はちょうど設立時期にあった新専門医制度を医師偏在の是正に利用できないかを真剣に検討した.そしてシーリングで主に診療科偏在を,専攻医を一つの病院に固定させないプログラム制研修によって地域偏在を是正すべく日本専門医機構(以下,機構)に働きかけ,こうした施策が機能していることを医道審議会で確認する制度を作り,さらに自治体の要望が厚生労働大臣の意見として専門医制度に反映されるように法を改正した.そうした中でサブスペシャルティ領域の連動研修が提案されたが,本来であれば地域医療に従事している年代の専攻医が専門病院に集中してしまうのではないかとの懸念から,医道審議会で承認されるまでに多大な時間と労力を要した.
このような状況の中,機構は専門医取得後の医師にも修練の一環として医師少数地域での勤務を義務付けようとした.基本領域学会の猛烈な反対によってこれは専門医更新の必須要件から努力目標に変わり,機構の寺本民生理事長は専門医制度を医師偏在対策に利用することは許容しないと明言した.しかし,医師偏在の問題が目に見えるように改善されなければ,専門医制度は今後も国の介入の対象となり続けるであろう.確かに医師偏在は解決すべき問題であり,可能な限り地域と対話しながら医師自身の力で是正する(プロフェッショナルオートノミー)ことが望ましい.
日本外科学会としては,どこまでこのイシューに向き合って改善への足がかりをつかみ,理想を掲げて開始した新専門医制度を守ることができるか,今後に向けて大きな課題を突きつけられている.
利益相反:なし
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