日外会誌. 123(1): 136-138, 2022
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(9)「リーダーを担う女性外科医の育成」
7.Leadership skillをどう学ぶか?~第一回ESMO Leaders Generation Programme Asiaに参加して
兵庫県立がんセンター 乳腺外科 田根 香織 , 福田 千紘 , 井上 翔太郎 , 平尾 益美 , 広利 浩一 , 髙尾 信太郎 (2021年4月10日受付) |
キーワード
リーダーシップスキルトレーニング, ESMO, 若手教育
I.はじめに
今回私は,第一回ESMO Leaders Generation Programme Asiaに参加する機会を得た.その経験と,リーダーシップスキルを学び生かすための,会参加後の取り組みについて述べる.
リーダーシップをとる人材の育成のために,特に外資系の企業においては,社員研修でリーダーシップスキルの講義等が開催されている.医療の世界でもリーダーシップスキルを学ぶ必要性が注目されており,海外では医師を含む医療従事者を対象としたリーダーシップ研修会が開催されている.日本国内でも看護や介護の分野では研修会が開かれているが,医師を対象にしたものは非常に限られているのが現状である.
Oncology領域では,ASCOが2009年からLeadership development programを開始し,ESMOは2016年より,Leaders Generation Programme(LGP)をヨーロッパで開催している.2019年11月に第一回LGP Asiaがシンガポールにて開催された.参加資格は,Asia-Pacific勤務の有資格のオンコロジスト,31~45歳,ESMO会員であることである.学会のメーリングリストから開催の情報を得て,必要書類を準備し,応募した.
II.第一回LGP Asia
ESMO Asiaに先立ち4日間に渡って開催された.15カ国16人が選出された.男女比もよく考えられており,男性9人女性7人であった.子育て中の女医は私含め2人であった.参加者は内科医が殆どで,外科医はインドネシアの腫瘍外科の男性,乳腺外科医の私の計2名のみであった.
一日目はESMOの働きや,教育活動,アジアが抱える諸問題について話し合った.またキャリアアップやネットワーキングなどについてsmall group discussionでそれぞれ意見を述べた.
二日目はCommunication trainingであった.Presentation skills training,Media skills trainingと,題を渡されてビデオカメラの前で話し,その後,録画されたビデオを皆で見てフィードバックした.
三日目はWomen for oncologyや,ESMO-Magnitude of Clinical Benefit Scaleについてのワークショップ,Pan-Asian adaptation of the ESMO guidelinesなどの講義があった.
最終日は丸1日Leadership training で,具体的なリーダーシップスキルのtipsについて,round table discussion,small group discussion,role-playなどを通じて体験型で楽しく学んだ.
III.LGP Asiaで私が得たもの
Asia-Pacificに同世代のたくさんのオンコロジストの友人ができた.また,ESMOのコアメンバーとのコネクションも得た.Asia-Pacificの医師は皆英語が非常に堪能であり,自分の語学力が不十分であることを改めて実感し,モチベーションが上がった.このプログラムは私の前にドアを開けてくれたと考えている.リーダーシップを取るために(=自分のチームや地域を輝かせて,いいチームを作るために),自分が何をすれば良いか,将来のプランを考えるきっかけとなった.
具体的に,自分のチームや自施設のアクティビティの向上のために何ができるか.1番目はまず広いネットワークを作ること,視点を日本だけではなくてアジアや世界に向けること.2番目はより良いメンタリングについて考えること.3番目は自分自身と周囲の労働環境をマネージメントしてモチベーションを上げること.そして最後が自分自身のパーソナルブランドを高めることである.これは非常に重要であり,学会論文発表をはじめ,会議でも積極的に自分の意見を述べて自分の存在をアピールすること,また積極的な院内院外活動を行うということが,自分のチーム・施設そして地域のアクティビティの向上につながる.チームや施設のアクティビティの向上が,地域・日本全体,ひいてはアジア全体のアクティビティの上昇につながっていくと考える.この会に参加した私の目標は,われわれのチームとアジアの国々との橋渡しをすることである.
また,海外生活を経験して気づいたことであるが,日本の若手医師はhesitateしてなかなか人前で自分の意見を言うことができないという特徴がある.自分の考えを述べるトレーニングが子供の頃からできていないことが他国との違いである.
IV.会参加後の取り組み
私が悩んだことなど,何か若手の先生たちに参考にしてもらえることがあるかもしれないと考え,自分自身の経験を若手の先生にシェアするように心がけている.乳腺外科医や研修医・学生の指導のほか,学会や研究会で自身のささやかな経験を発表した(例;夫婦海外留学の勧め~家族皆で充実した留学生活を送るために~第119回日本外科学会定期学術集会,PS-086-6,My experience of the first ESMO Leaders Generation Programme Asia, the wonderful program for young Asian oncologists. 第58回日本癌治療学会学術集会,O73-4).
次に,若手のうちから,自分の意見を人前で述べるトレーニングを行う必要があり,後輩が自分の意見を忌憚なく発表できる環境を作りたいと考えている.先日兵庫県で開催した若手医師限定少人数制のワークショップは,35歳以下限定で1グループ3〜4人での症例検討と発表をしてもらった.会の目標は,若手の先生たちに気軽に話せる知り合いを作って,自由に意見を述べて切磋琢磨してもらう場を作ることである.自分の弱点を知り,モチベーションを上げ,自身の目標を考える機会につながると考えている.
私自身も自分の意見を言う訓練ができる機会を獲得するべく,日々努力している(学会の委員会や臨床試験グループのメンバーなど).他,研究会や学会で意見を述べること,質問をすること,また地域での勉強会の立ち上げなども自分の意見を述べる練習の機会となりうる.
V.これからの課題
私はこのたび同世代のAsia-Pacificの医師と知り合い,非常に良い刺激を受け,自分の足りないものに気づいた.今後は若手医師が他国の同世代の医師と交流できる場を設定していきたいと考えている.また,日本国内での,医師を対象にしたリーダーシップスキルトレーニング研修会の参加や開催について積極的に検討している.関連する先生方のお力添えをいただければ幸いである.
LGP Asia はCovid-19の影響で延期していたが,今後も開催される予定である.(https://www.esmo.org/career-development/leaders-generation-programme-asia)
若手の先生たちには,このプログラムに参加してリーダーシップスキルについて学ぶことを含め,ぜひ海外で見聞を広げてほしい.
VI.おわりに
“Leadership isn’t about being great, its about enabling others to be great.” by David Macqeen 会の初めに提示されたフレーズで,私が最も勇気付けられた言葉である.私自身が輝く必要があるのではなく,チームの人たちが輝くことができる環境を私が作ればいいのだと気づいた.そしてそれなら私でもできる,と考えている.誰もが皆リーダーになる可能性を持っていると信じて.
最後になりましたが,貴重な機会を与えてくださった会頭の松原先生,また座長の齋藤先生,平松先生,特別発言をいただいた炭山先生に厚く御礼を申し上げます.ご質問や,何か私がお役に立てることなどありましたら,遠慮なくご連絡ください.ありがとうございました.
利益相反:なし
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。