日外会誌. 123(1): 127-129, 2022
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(9)「リーダーを担う女性外科医の育成」
4.米国Acute Care Surgeryにおける女性外科医リーダーシップ
帝京大学医学部 救急医学講座Acute Care Surgery部門 伊藤 香 (2021年4月10日受付) |
キーワード
Acute Care Surgery, Association of Women Surgeons, 性別, 職位
I.はじめに
筆者は,2005年に日本で外科研修を修了し,日本外科専門医資格取得後に渡米し,外科研修,Acute Care Surgery(ACS)フェローシップを経て米国外科専門医・外科集中治療専門医資格を取得した.米国では各外科サブスペシャルティでリーダーシップを担う女性外科医と出会うことが出来た.なかでも,ACSは女性外科医の活躍の目覚ましい分野であった.本稿では,米国のACSにおける女性のリーダーシップと,今後の日本における課題について述べる.
II.Acute Care Surgeryとは
ACSとは,外傷,一般外科緊急手術,外科集中治療,定期底一般外科手術,Surgical rescueの5本柱からなる,外科疾患の急性期病態の手術と集中治療管理を担う外科のサブスペシャルティの一つである1).米国のACS外科医は,5年間の外科研修履修後,外科専門医資格を取得し,1~2年間の外科集中治療フェローシップを履修し,外科集中治療専門医資格を取得していることが一般的である2).外傷以外の守備範囲は,主な七つの手術(試験開腹術,消化性潰瘍手術,小腸切除,結腸切除,癒着剥離,胆嚢摘出,虫垂切除),八つの病態(炎症,穿孔,閉塞,出血,虚血,壊死,低酸素,感染)と言われ,ACSチームは,これらの急性期病態にタイムリーに対応するために,標準的な術式を確実にこなせる技術を持った外科医で24時間体制をとる必要がある.
重症外科疾患急性期を担うACSは,大変そうであると思われるかもしれないが,実際は,ワークライフバランスが保ちやすく,女性が多く活躍する分野である.勤務体制はシフト制となることが多く,家庭との両立がしやすい.習熟すべき手術手技は,外傷と上述した八つの病態に対する七つの手術と,ある程度限定されており,特殊技術に卓越することを目指すよりも,標準的な外科手技を標準的な質でタイムリーに行うことが求められるため,他のサブスペシャルティに比べると技術維持は比較的容易であり,家庭の事情で超過勤務が出来ない状況でも,自分のシフトさえしっかりこなせば,継続することが可能である.
Fosterらは,米国の医学領域での女性の割合は,医学部卒業生の47%,外科レジデントの38%,外科医全体の22%であるが,外科集中治療専門医(ACSに必要な専門医資格)では28%が女性であり,ACS外科医の中の女性の割合は,外科医全体の女性の割合より高かったと報告した.さらに,米国外傷外科・ACS学会は,リーダーシップをとる役員などの重要ポジションの30%以上が女性であり,外科医全体の女性の割合よりも高く,当分野での女性の進出を示した3).
III.米国の女性外科医のリーダーシップの状況
米国においては,35年前にAssociation of Women Surgeonsが結成され,女性外科医が男性外科医に比し,リーダーシップを担う立場になれない原因が調査され,その結果,性差別,ロールモデルやメンターシップの欠如,ワークライフバランスに関する懸念が原因として指摘され,改善するための努力がなされてきた.2015年のAssociation of American Medical Colleges FACTSおよびGraduate Medical Educationのデータベースに解析では,米国外科医のうち,各職位で女性の占める割合を1994年と2015年で比較すると,教授職では3.4%から9.8%に(平均年次増加率0.3%),准教授職では8.2%から19.2%(平均年次増加率0.6%)に,講師職では14.7%から25.0%(平均年次増加率0.5%)に増加していた.さらに,外科各サブスペシャルティにおける女性外科医の割合および平均年次増加率が最も高かったのはACS(42.7%,平均年次増加率1.4%)であり,理由として,ワークライフバランスの保ちやすさが挙げられた.この解析によれば,男女比率が均等になるまでにかかる時間はACSでは6年と算出され,他のサブスペシャルティのなかで最も早いと予想されている4).
IV.日本の状況
Konoらは,Japanese National Basic School Survey dataを用いて,1980年から2018年までの日本の大学の医学部もしくは教育病院における各職位の女性の割合を算出した.教授職の女性の割合は,1990年代まで2%程度だったものが,2004年には10%までに達していたが,そこでプラトー状態となっていた.一方,講師職の女性の割合は,持続的に増加傾向で,2018年には29.7%と,その時期の医師全体の女性の割合(21.1%)よりも高かった.この現象からは,講師にまで進める女性は増えたが,そこから先,教授になるには,「ガラスの天井」があるように見える.この問題を解決させるために,以下4項目が提案された:①女性の学術面での発展をサポートするプログラムを確立させる,②長時間労働が出来ない若い女性ファカルティのロールモデルとなれる強力なメンターを支援する,③女性ファカルティのリーダーシップと研究の技術の促進,④日本の医学校のファカルティの中の女性の比率を設定する5).
V.おわりに
米国において,ACSは女性外科医の増加率が最も高い分野であり,女性がリーダーシップをとる機会が多い.ACS女性外科医増加は女性外科医全体のロールモデルやメンターシップの増加につながり,ひいては,リーダーシップの増加につながる可能性があるのではないだろうか.女性外科医が良好なワークライフバランスで仕事を継続できるようになることでマンパワーが担保され,女性のみならず,外科医全体のQuality-of-lifeが改善する可能性がある.
利益相反:なし
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