日外会誌. 123(1): 124-126, 2022
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(9)「リーダーを担う女性外科医の育成」
3.女性乳腺外科医が乳腺診療を支える次世代に向けて~現状と課題に対するSWANの取り組み~
1) 医療法人思誠会渡辺病院 乳腺外科 溝尾 妙子1) , 大谷 悠介2) , 鈴木 陽子2) , 鳩野 みなみ2) , 安部 優子2) , 河田 健吾3) , 工藤 由里絵4) , 笹原 麻子2) , 西山 慶子2) , 池田 宏国5) , 河合 央6) , 吉富 誠二7) , 原 享子7) , 土井原 博義2) (2021年4月10日受付) |
キーワード
女性管理職・リーダー育成, 女性乳腺外科医, 意識付け
I.はじめに
NPO法人瀬戸内乳腺事業包括的支援機構(Setouchi Breast Comprehensive Support Organization:SBP)は,中四国地域で乳腺診療に携わる医療者のネットワークであり,専門医の育成,臨床試験,乳腺疾患に関わる広報等を行っている.SBPの分科会として,2011年に女性医師支援を目的とした瀬戸内女性乳腺外科医会(Setouchi Woman Breast Surgeon Association:SWAN)が設立された.設立当初の目的は,出産,育児などで臨床を離れた女性医師の復職支援,女性医師同士の情報交換であった.主な活動として,学生と医師との本音トーク会,SBPイベントでの託児,ホームページに先輩医師の経験談を掲載,SBP総会で男女共同参画の講演等行ってきた.本年度で設立10年を迎えるが,これらの活動の結果,現在では女性乳腺外科医の活躍は目覚ましい.
女性乳腺外科医は近年増加傾向である.SBPの独自調査では,40歳未満の乳腺外科のうち7割が女性であり,10年後の乳腺診療を担うのは7割が女性となることが予想される.つまり,今後は女性が管理職,リーダーにならざるを得ない状況となると考えられ,われわれは危機感を感じ始めた.そこで,2018年からSWANの目的に「次世代リーダーの育成」を新たに追加した.
II.女性管理職・リーダーに関する実態調査
われわれは現状を把握するために,女性管理職・リーダーに関する実態調査を乳腺科の女性医師と管理職を対象に行ってきた.
2013年に乳腺診療に携わる女性医師32名を対象に行ったアンケートでは,管理職・リーダーに「すでになっている」は1名(3%)だった.すでになっている人を除いた31名中,「なりたい」2名(6%),「どちらともいえない」5名(16%),「なりたいと思わない」25名(79%)だった.
2018年にSBP関連施設の乳腺科の管理職16名を対象に行ったアンケートでは,管理職自身が女性医師の管理職登用,女性リーダー育成を推進しているかという問いについて60%が「推進したい」と回答した.女性管理職,リーダー育成に必要な支援(自由記載)は,「家族の支援」「職場環境の改善」が挙げられた.
2021年に乳腺診療に携わる女性医師30名を対象にアンケート調査を行った.管理職・リーダーに「すでになっている」は5名(16%)で2013年より増加していた.すでになっている人を除いた25名中,管理職・リーダーを「考えている」1名(4%),「勧められれば考える」7名(28%),「考えていない」17名(68%)であった.管理職・リーダーを「考えている」「勧められれば考える」合わせて32%であり,内閣府が勧める女性管理職登用30%に近づいていた(図1A).管理職・リーダーを考えている/なった理由で最も多いのは「後輩の育成をしたい」だった.一方,管理職・リーダーを考えていない理由で最も多いのは「仕事と家庭との両立が大変」だった.リーダーになるために必要なことは「家庭や配偶者の理解」,「職場の仕事と家庭との両立への理解」が多かったが,「女性自身の意識」も次に多かった(図1B).リーダーに必要な力は「行動力・決断力」と「コミュニケーションの能力」が同数で重視されていた.目指す将来像についての自由記載では,「後輩の指導」「診断から治療まで責任もって診療する」「開業や管理職」など,将来的にリーダー的役割を視野に入れた意見が多くみられた.
III.次世代リーダー育成のために,これからの課題
実態調査より,管理職・リーダーになっている,考えている女性医師は増加し,女性医師自身が管理職・リーダーを意識した意見もみられ,好ましい傾向であった.指導医側は,女性医師がリーダーに一歩踏み出せるよう後押してもらいたい.
一方,女性管理職・リーダーの課題として「家庭との両立」が,指導医と女性医師双方から挙げられている.働き方改革が進められる中,管理職であってもワークライフバランスを保てる職場環境の調整は引き続き必要な取り組みである.さらに必要なのは,ライフイベントが忙しい時期であっても仕事へのモチベーションを維持し続けることである.モチベーションを上げるためには「目指す医師像」を描くことは有効と考える.今回の実態調査の中で「目指す医師像」について問い,リーダー的役割を視野に入れた回答が多くみられたことは意義深い.ライフイベントが忙しい時期でも,「目指す医師像」を女性医師と指導医との間で共有し,目標に向かってキャリアを積める方法を一緒に模索していくことが管理職・リーダー育成に繋がると考える.
管理職・リーダーに消極的な女性医師が一歩踏み出す後押しをするために,従来の支配型リーダーではなく,支援型リーダー(サーバントリーダ―1))を提案すると受け入れられやすいかもしれない.サーバントリーダーは,部下との信頼関係や互いの協力を重視するため,働きやすい職場環境づくりにも効果があると考える.
IV.SWANのリーダー育成の取組
SWANではこれまでに女性リーダー育成に関して実態調査,課題抽出を行い,次は実行である.SWANの母体であるSBPは多様な世代,地域,施設規模の乳腺外科医のネットワークであり,総会,臨床研究,各委員会(広報,乳癌登録,教育,学術等)など行っている.SBPの幅広いネットワークと多彩な活動を活かして女性リーダー育成に取り組みたい.具体的には,①総会や研修会で若手医師と指導医双方に対してリーダーについて意識付け②臨床試験や各委員会で若手医師のリーダー適用,③多様なロールモデルの提示を進めていきたい.なお,SWAN自体は若手医師から指導医まで含めた「コアメンバー」によって運営されているが,若手のコアメンバーにはSWANの企画や後輩の相談など積極的にリーダーとしての役割を担ってもらい,リーダーとしての成長機会としている.
V.おわりに
女性管理職・リーダーが求められる現状において,女性医師と指導医双方に対して「女性がリーダーになる」という意識付けが最も重要と考える.女性医師は将来リーダーになる自覚を持ってチャレンジし,指導医側も女性医師をリーダーにさせる意識を持ってチャンスを与えていただくことを望む.今後,女性医師がリーダーになるという意識が全体に浸透していくことを期待する.
利益相反:なし
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