[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (1846KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 123(1): 118-120, 2022

項目選択

定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(9)「リーダーを担う女性外科医の育成」
1.女性医師がリーダーとなるために求められるものとは―医師のリーダーシップに関するアンケート調査より―

信州大学 医学部外科学教室消化器・移植・小児外科学分野

本藤 奈緒 , 宮川 雄輔 , 増田 雄一 , 北沢 将人 , 村中 太 , 得丸 重夫 , 中村 聡 , 小山 誠 , 山本 悠太 , 黒岩 正嗣 , 田中 宏和 , 副島 雄二

(2021年4月10日受付)



キーワード
男女共同参画, アンケート, 働き方改革

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
男女共同参画社会法や女性活躍推進法のもと,女性管理職の増加が進められているが,外科領域における女性リーダーの割合は他の診療科と比較しても低い.今回,医師のリーダーと資格に関する意識調査を行い,女性リーダーの育成に求められることについて検討した.

II.対象と方法
当大学病院に勤務する医師663人に無記名でのアンケートをメールで送付し,集計した.回答率は16.1%(107名),男性76名,女性31名であった.

III.アンケート内容
Q1)性別,卒後年数
Q2)職位・勤務形態[講師以上,助教,医員・後期研修医・社会人大学院生,非常勤,初期研修医,その他]
Q3)パートナーの有無,職業,就労の有無
Q4)学位取得・サブスペシャルティ以降の専門医資格の有無
Q5)リーダーになりたいと思うか[5段階評価]
Q6)リーダーに必要だと思うもの[三つまで選択し回答]
Q7)リーダーを目指す上での障害[三つまで選択し回答]
Q8)常勤医としての勤務・当直・資格取得・学位取得が家事・育児・介護と両立する上で困難であるか[5段階評価]

IV.大学病院勤務医師の背景について
回答者の卒後年数は平均15.1年で,男女間に有意差は認めなかった.講師以上の割合は男性で高く,非常勤は女性に多かった(図1A).学位取得者は男性55.4%,女性35.5%,サブスペシャルティ以降の専門医資格取得者は男性70.3%,女性48.4%で男女間に有意差を認めた(P=0.04,0.05,図1B).パートナーがいる人は男性90.8%,女性83.9%で,女性医師のパートナーの7割は医師であり,一方で男性医師のパートナーの半数以上は現在働いていなかった(図1C).

図01

V.リーダーや資格取得に関する意識について
リーダーになりたいかどうかについて5段階で質問したところ,女性はリーダーへの意欲が有意に低い結果であった(P<0.01,図2A).リーダーに必要なものについて,コミュニケーション能力(51.4%),指導力(46.7%),責任感(45.8%),統率力(44.9%),診察能力(30.8%)といった要素の回答率が高く,男女差は認めなかった(データ未掲載).リーダーとなる上での障害として,同僚の協力が得られない(49.5%),日常業務が多い(46.7%),家族の協力が得られない(41.1%)との回答が多かったが,女性では育児(41.9%),妊娠・出産(32.3%)の回答率が高く,男性の21.1%,14.5%と比較して有意差を認めた(P=0.03,0.04,図2B).また,家庭の仕事との両立について,常勤や当直を行うこと,学位・資格の取得いずれの回答においても有意差を持って女性でより困難と感じていた(図2C).

図02

VI.考察
今回のアンケート調査では,女性でリーダーを目指したいと思う人の割合は男性より低かった.また,学位や資格取得について女性でより困難だと感じ,実際に取得率も低かった.女性が,妊娠,出産などのライフイベントに加えて家庭の仕事をより重点的にこなさなければならない状況が,常勤医としての勤務の継続や学位や専門医などの資格取得に困難さを感じさせ,リーダーを目指しにくい環境を作っている可能性がある.この状況の改善のため,以下の二つを提言する.
①家事・育児を含めた男女間の業務の均一化
育休や時短勤務等の支援は女性に対してだけでなく,男性も同等に育児や家事を行える環境を整えることが男女共同参画の本質と考えられる.そのためには男性医師も含めた適切な業務量の調整や働き方改革の推進も必要である.男女共に家庭生活と両立できるような環境において,はじめて男女平等な評価が可能であり,リーダーに対する意欲を持ちやすい環境ができると考える.
②継続的に研修実績を積めるようなフレキシブルな研修システムの構築
女性は妊娠・出産といったライフイベントによりキャリアを中断されやすい状況がある.計画的に資格取得に必要な研修実績を積めるカリキュラムを前提に,妊娠,出産後にも何らかの形でキャリアを継続できるような研修システムが求められる.その一つの形として,昨今の学会や資格試験におけるweb参加のシステムは有用である.遠隔地からでも時間を気にせず研鑽や受験が可能になったことは,男女共に大きなメリットがあり,今後の学会開催においても,ハイブリッド開催の継続を希望している.また研修システムの一環として関連病院への派遣などの人事異動も必要であるが,特に医師同士のカップルの場合には夫婦双方の所属医局による派遣先の調整を行うことにより,単身赴任による女性医師の育児負担増加を防ぐことも有用と考えられる.

VII.おわりに
リーダーを担う女性外科医の育成には,育児や家事を夫婦双方で分担できる環境整備と,確実に資格や技術が取得できるようなフレキシブルな研修システムの整備の二つの支援が求められる.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。