日外会誌. 123(1): 112-114, 2022
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(8)「待ったなしの働き方改革への対応・対策」
5.自治医科大学における特定行為看護師の養成と働き方改革
1) 自治医科大学 消化器一般移植外科 清水 敦1) , 倉科 憲太郎1) , 笹沼 英紀1) , 遠藤 俊輔2) , 大槻 マミ太郎3) , 村上 礼子4) , 春山 早苗4) , 渡井 恵5) , 大柴 幸子5) , 佐田 尚宏1) (2021年4月10日受付) |
キーワード
特定行為研修, タスクシェア, チーム医療
I.はじめに
外科医の多忙な業務を改善するため「働き方改革」が求められている.自治医科大学附属病院では患者サポートセンターの設置をはじめコメディカルとタスクシェアをしてチーム医療の実践を推進してきた.医療安全を担保しつつ医師と協働して効率的に医療を提供していくために,特定行為看護師の役割が今後さらに期待されている.2015年に看護師特定行為研修センターを設置し,特定行為看護師200名・指導者71名を養成してきた本学での経験を踏まえ,現在の課題を分析しわれわれの取り組みを紹介する.
II.特定行為看護師の養成
いわゆる団塊の世代が75歳となる2025年までに特定行為看護師を10万人養成することが目標とされている.指定研修機関は272施設(2021年2月現在)にまで増加しているものの1),研修修了者は全国で2,887名(2020年10月現在)に留まる2).特定行為研修の受講阻害要因として仕事と研修の両立が困難であること,経済的問題,研修項目数が多いこと,研修後の処遇が明確でないこと等が指摘された3).約75%は受講費補助を受けていた4).利便性から領域別パッケージ研修が導入されたが,外科術後病棟管理領域の受講は伸び悩み,特定行為科目数の多さが原因の一つと考えられた.項目を絞った外科基本領域パッケージに期待が高まる5).当院では5年間で50名の外科パッケージ修了者を育成すべく受講費を全額補助している.
III.全国所属施設での特定行為看護師の活動状況
われわれの先行研究によると修了者の7割弱は経験年数15~30年の看護師で,過半数は500床以下の病院に勤務していた.実施行為は数種から10種以上と個人差があり,脱水に対する輸液,感染に対する薬剤投与,動脈穿刺採血が多かった.施設長が必要と考える行為には創傷・瘻孔管理,皮膚損傷に係る薬剤投与,栄養・水分・血糖管理,呼吸器関連,感染に係る薬剤投与が挙げられた.各種の特定行為により医師の負担が軽減していると施設管理者や協働している医師は認識している.特定行為看護師の活躍によりタイムリーに必要な医療が提供され,患者・家族の安心感・満足度が高まっている.医師と治療計画やゴールを話し合い,アセスメントを共有し医師と協働することでチーム医療に貢献するようになっている.今後の課題として,研修のカリキュラム内容の整理,症例確保,評価方法の均てん化などの他,所属組織内での特定行為看護師の位置づけならびに医師と協働する際の院内コンセンサス形成の問題が浮き彫りにされた6).
IV.自治医科大学における特定行為看護師と医師との協働
研修修了者が医師と連携して円滑に活動するため,特定行為看護師活動支援委員会を2018年度から設置し院内の体制を整備した.当院では研修修了者は特定行為ごとに5症例の習得審査を経てから独り立ちするようにし,特定行為の質を担保している.院内の特定行為看護師34名のうち行為別の担当者勤務表をポータルサイトで共有しており,約130件/月の特定行為を実施している.施行頻度の高い行為には気管カニューレの交換,動脈採血,気管チューブの位置調整,侵襲的陽圧換気の設定,創部ドレーンの抜去等がある.現在12名が研修中である.
自治医科大学消化器一般移植外科において,特定行為看護師との協働等により医師(講師以下)在院時間が短縮しているかを出退勤記録より調査した.2021年1月の月間超過勤務時間は中央値70時間であった.1年前と比較して超過勤務時間が短縮した者とそうでない者が混在しており,統計学的に有意な減少はみられなかった.(Wilcoxon検定).臨床以外にも教育・研究業務があり,在院時間の短縮には直接反映され難かったためと考察された.
V.おわりに
特定行為看護師の養成状況とその課題ならびに自治医科大学における医師との協働につき報告した.医師の業務は段階的に軽減されていくと考えられるものの,未だタスクシフトの途上であり,外科医の院内滞在時間短縮にまでは至っていない.特定行為看護師の充足とともにさらなる改革が望まれる.
利益相反:なし
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