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日外会誌. 123(1): 89-91, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(7)「≪外科学再興特別企画≫癌に対する免疫治療New Era」
4.消化器癌に対する新規複合免疫療法

1) 山口大学医学部 先端がん治療開発学
2) 山口大学大学院 免疫学
3) 千葉大学大学院 消化器内科学
4) 慶應義塾大学 病理学
5) 山口大学大学院 消化器・腫瘍外科学

硲 彰一1) , 玉田 耕治2) , 加藤 直也3) , 坂元 亨宇4) , 永野 浩昭5)

(2021年4月10日受付)



キーワード
免疫療法, 消化器癌, 免疫アジュバント, HSP70, GPC3

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I.はじめに
癌免疫療法は,2013年にScience誌の Breakthrough of the Yearに選ばれた免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor:ICI)をはじめとして,臨床現場に導入され,大きな成果を上げている.しかしながら消化器癌に対するICIの効果は癌腫により異なるが最大で20%程度であり,化学療法や分子標的治療との併用で効果が上がると報告されている.われわれは新たな免疫アジュバントとマルチHLA結合性ペプチドを使用した新規がんワクチン療法の臨床試験を2016年に開始し,本療法の安全性・抗腫瘍免疫誘導・臨床効果を確認した.さらに,2018年に本療法を肝細胞癌術前術後補助療法に応用した.その結果,腫瘍局所への著明なT細胞浸潤が確認でき,Cold tumorをHot tumorに変える効果が示唆され,ICIとの併用戦略を考えている.

II.免疫アジュバント
山口大学では,免疫学講座と消化器・腫瘍外科学講座が連携して,日本電気株式会社(NEC)並びにサイトリミック株式会社(CYTLIMIC)との共同研究により,新規免疫アジュバントとマルチHLA結合性ペプチドの開発を行ってきた.免疫学教室では,様々な免疫アジュバントの組み合わせを解析し,LAG3-IgとPoly-IC:LCの組み合わせが最も免疫アジュバントととして有効であることを見いだした1).LAG-3(Lymphocyte activation gene-3:CD223)は,CD4+細胞,CD8+細胞,制御性T細胞(Treg細胞)などの表面分子である.LAG-3を介してCD4+細胞が抗原提示細胞上のHLA Class Ⅱ分子に結合し,免疫機能を制御する.一方,T細胞側では,LAG-3がT細胞受容体と相互作用し,エフェクターT細胞およびTreg細胞の応答,活性化,増殖を制御する.LAG3-IgはLAG-3の細胞外ドメイン部分を,ヒトIgG1のFab Igドメインと置換してLAG-3の可溶性ダイマーを作成することにより,T細胞の表面に存在するLAG-3分子を模倣すると共に,抗原提示細胞表面のHLA ClassⅡ分子との結合部位を持ち,ClassⅡアゴニストとして働くと考えられる.Poly-IC:LCは抗原提示細胞表面に発現するtoll-like receptor 3(TLR3)と結合する物質であり,ある種のウイルス等が持つ二重鎖RNAと似た構造を持ち,外来の異物を認識する自然免疫を活性化する.非臨床試験によりLAG3-IgとPoly-IC:LCの併用により,疲弊の少ない腫瘍抗原特異的細胞傷害性T細胞の誘導が観察され1),このアジュバントを臨床に導出した.

III.マルチHLA結合性ペプチド
われわれは以前から肝細胞癌ではheat shock protein 70(HSP70)を高発現することに着目し,HSP70のmRNAを導入した樹状細胞を用いた免疫療法の臨床研究を行ってきた2).今回,細胞免疫療法からペプチド療法に移行するに際して,できるだけ多くの症例に適応できるようにマルチHLA結合性ペプチドの開発を行った.NECのペプチド予測プログラムを用いて,3種のHLA ClassⅠ分子(HLA-A*24:02,02:01,02:06型)に結合することが予測されるペプチド配列を複数選定し,in vitroでペプチド特異的免疫の誘導試験を行い,9アミノ酸(YGAAVQAAI)のペプチドを決定した3).これにより,理論的には日本人患者の約85%をカバーするペプチドワクチン療法が施行可能となる.また,中面らによりglipican-3(GPC3)が肝細胞癌に高発現し,ペプチド療法が有効であることが報告されていたことから4),GPC3由来のマルチHLA結合性ペプチド(MVNELFDSL)も同様にして同定した5).HSP70とGPC3は他の消化器癌にも発現していることを確認(表1)し,次に述べる臨床試験を開始した.

表01

IV.他治療無効消化器癌に対する第Ⅰ相臨床試験
以上述べてきた,免疫アジュバント(LAG3-IgとPoly-IC:LC)とマルチHLA結合性ペプチド(HSP70並びにGPC3由来)をCYT001と命名し,新規複合免疫療法の第I相試験をNEC並びにCYTLIMICと山口大学との共同研究として開始した.最初の臨床試験(YNP01試験)は,他治療無効の消化器癌患者を対象として,CYT001を皮内に投与した.4週間を1コースとして,最初の2コースは毎週,次の2コースは隔週,その後4週に一回の投与を行った.大腸癌6例,食道扁平上皮癌5例,肝細胞癌4例,膵癌1例,胃癌1例が登録された.投与したペプチドに対する特異的免疫反応はELISPOT assayの結果,HSP70では17例中11例(65%),GPC3では13例(77%)で誘導された.また,腫瘍マーカーは10例(59%)で低下した.食道癌2例,肝細胞癌2例,胃癌1例で病勢の制御(SD)が得られた.治療関連性の重篤な毒性は認めず,本療法の安全性と有効性が確認された5)

V.切除可能肝細胞癌に対する周術期免疫療法の第Ⅰ相試験
次に,切除可能肝細胞癌20例に対する周術期免疫療法の第Ⅰ相試験(YCP02試験)を行った.術前に週に一回,計6回のCYT001投与を行い,肝切除術後に計10回のCYT001を投与した.すべての症例で治癒的肝切除が可能であり,治療に関連する重篤な副作用は認めず,周術期における本療法の安全性が確認された.切除標本の検討では,通常肝細胞癌では病巣の周辺だけに免疫細胞浸潤を認めることが多いが,CYT001投与後の肝細胞癌では,高率に腫瘍内にCD8陽性細胞並びにマクロファージの著明な浸潤を認め,腫瘍細胞に対する免疫応答が惹起されていた.いわゆるcold tumorである肝細胞癌がCYT001の投与によってhot tumorへと変化したと考えられ,浸潤リンパ球にはPD-1の発現も著明に認めていることから,免疫の活性化と疲弊が示唆され,抗PD1抗体との併用でさらに効果が高まる可能性がある.

VI.おわりに
免疫アジュバント(LAG3-IgとPoly-IC:LC)とマルチHLA結合性ペプチド(HSP70並びにGPC3由来)を用いた新規複合免疫療法の臨床試験により,cold tumorがhot tumorになることが分かった.今後,抗PD-1抗体との併用療法を進める予定である.

 
利益相反
研究費:サイトリミック株式会社,日本電気株式会社
奨学(奨励)寄附金:日本電気株式会社
寄附講座:サイトリミック株式会社

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文献
1) Kano Y, Iguchi T, Matsui H, et al.: Combined adjuvants of poly(I:C) plus LAG-3-Ig improve antitumor effects of tumor-specific T cells, preventing their exhaustion. Cancer Sci, 107: 398-406, 2016.
2) Matsui H, Hazama S, Nakajima M, et al.: Novel adjuvant dendritic cell therapy with transfection of heat-shock protein 70 messenger RNA for patients with hepatocellular carcinoma:a phase I/II prospective randomized controlled clinical trial. Cancer Immunol Immunother, 70: 945-957, 2021.
3) Matsui H, Hazama S, Tamada K, et al.: Identification of a Promiscuous Epitope Peptide Derived From HSP70. J Immunother, 42: 244-250, 2019.
4) Sawada Y, Yoshikawa T, Ofuji K, et al.: Phase II study of the GPC3-derived peptide vaccine as an adjuvant therapy for hepatocellular carcinoma patients. Oncoimmunology, 5:e1129483, 2016.
5) Nakajima M, Hazama S, Tamada K, et al.: A phase I study of multi-HLA-binding peptides derived from heat shock protein 70/glypican-3 and a novel combination adjuvant of hLAG-3Ig and Poly-ICLC for patients with metastatic gastrointestinal cancers:YNP01 trial. Cancer Immunol Immunother, 69: 1651-1662, 2020.

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