[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (4229KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 122(6): 711-715, 2021

項目選択

定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「資源の集中と地域医療」
8.地域医療構想の実現に向けて―地域医療連携推進法人は外科医不足解消のツールとなり得るか?―

慶應義塾大学 大学院経営管理研究科
亀田総合病院 腎臓高血圧内科

松波 昌寿

(2021年4月9日受付)



キーワード
地域医療構想, 地域医療連携推進法人, 外科医不足

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
現在日本で進められている医療提供体制改革の中核は,地域医療構想,医師偏在対策,働き方改革の3施策である.このような中,三位一体改革のソリューションの一つとして地域医療連携推進法人(以下,「法人」という.)が注目を集めている(図1.1).本研究ではこの法人の特徴を明らかにし,外科医不足解消のツールとなり得るかを検討した.

図01

II.方法
まず,既存文献から網羅的な情報収集を行った.次に,特徴的な三つの先行事例による詳細なケーススタディを行った.実際に研究対象の医療機関を訪問し,聞き取り調査によるデータ収集を行った.

III.結果
2020年10月現在,全国で20法人が認定されており,設立が全国に拡がりを見せていた(図1.2).各法人の基本理念は,地域包括ケアシステムの構築や地域医療構想の達成を視野に,法人に参加する医療機関の施設間連携や診療情報の共有化,医療資源の有効活用,更には医療従事者の確保・育成に取り組むというものであった.法人の規模,目的,設立母体は,地域によって異なり多種多様であり,それだけ自由度が高い制度ということが分かった.
これまでに報告された法人からその設立モデルを大きく四つに分類した(図2.1).また,法人設立の意思決定における特性要因図(図2.2)を作成した.地域特性により医療需要や医療供給に格差があるため,ニーズに合った法人設立が行われていた.
事例① 地域医療サバイバル型:経営難,医師不足,建物の老朽化などを理由に公立病院同士の再編・統合モデル(図3.1).スケールメリットによる医師の採用が容易になり(病床数の適正化 928床→760床,医師数の増加 112人→160人),外科医の増加(外科:14人→13人,乳腺外科:0人→3人,心臓血管外科:5人→6人),それに伴う手術件数の増加(3,255件→6,134件)が認められた.
事例② 大病院系列化型:大学病院を核とした川上から川下までの垂直統合モデル.急性期~回復期~慢性期~在宅のシームレスな患者の流れを構築した(図3.2).安定した連携体制があるため,外科医が手術などの高度医療に専念できる環境を実現できた.これまで後方連携施設との職員教育強化について取り組みを行ってきたため,まだ手術件数,医師数の増加は認められていない.
事例③ 公を担う民型:公立病院と民間病院の連携モデル.公立病院が急性期から回復期への病床転換を行い,機能分化を図った(図4.1).円滑な救急医療体制を構築できたが,手術件数の増加には至っていない.

図01図02図03図04

IV.考察
この制度を導入することで具体的なメリットとして,円滑な人事交流,医薬品の共同購入,給食サービスの共同化,病床転換,資金貸付,地域フォーミュラリが期待されていたが1),本研究の3法人においては,図4.2に示すように,人事交流以外のメリットの享受はあまりなかったように見受けられる.では一体何がメリットとして挙げられるのか.それは各法人で独自に地域特性に合ったメリットを生み出して,協力体制の円滑化を図っていた.つまり,国からの型にはまったメリット享受の押し付けではなく,地域で話し合い最適解を見つけ出すための高い自由度や,地域特性への柔軟性を兼ね備えた枠組みが,地域医療連携推進法人制度の最大の魅力である.

図04

V.おわりに
地域医療連携推進法人は,限られた医療資源の効率的な活用に向けた重要なツールになり得ると考えられたが,外科医不足問題を解消するための効果が出るにはまだ時間を要するのが実情であった.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


文献
1) 山本 光昭 :医療アライアンス法人構想 病院の新たなグループ化の提言.病院,79: 283-287, 2020.

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。