日外会誌. 122(6): 695-698, 2021
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(5)「資源の集中と地域医療」
3.地域がん医療需要の特徴とくまもとメディカルネットワークを用いた消化器外科連携診療の実践
1) 水俣市立総合医療センター 外科 長井 洋平1)4) , 志垣 博信1) , 山澤 順一2) , 堀之内 誠1)4) , 成田 礼3) , 阿部 道雄1) , 坂本 不出夫1) , 中村 健一4) , 問端 輔4) , 江藤 弘二郎4) , 近本 亮4)5) , 宇宿 功市郎6) , 馬場 秀夫4) (2021年4月9日受付) |
キーワード
地域外科医療, がん医療需要, 医療情報ネットワーク, 遠隔連携診療
I.はじめに
高齢化の進展と医療アクセスの問題があるなか,医師偏在と若手外科医数の減少もあって1)
2),“地域外科医療の維持”が大きな課題となっている.また,病院集約化の重要性が示される一方,地域にはある一定の地域内完結医療へのニーズが存在する3).当院は県唯一の大学病院から85km離れ,担当医療圏(芦北,水俣医療圏:人口約4万5千)内唯一の急性期総合病院(361床,常勤外科4名,手術340例/年)である.この地域において健全な外科医療の維持を目指すには,医療需要の特徴を知り,持続的発展を可能とする診療体制の構築が必要と考えられる.
II.地域がん医療需要の特徴
4年間(2015年~2018年)の熊本県院内がん登録データ(21医療機関,68,177件)を活用し,県中心部と地域における症例背景の違いを調べた.県中心部(9医療機関,50,168件)の登録件数の年次推移は横ばいからやや減少傾向で,地域(12医療機関,18,009件)では増加傾向であった(図1a).登録時平均年齢の年次推移はどちらも増加傾向であり,地域の方が県中心部に比較してより高齢(3.6~5.3歳)であった(図1b).また,当院の登録時平均年齢は年々上昇し,2018年は平均74.5歳であった(図1c).
次に,3年間(2018年~2020年)の当院院内がん登録データ(952件)を活用し,消化器がん医療需要を調べた.消化器がんは342件(全体の36%)で(図2a),そのうち30件を大学病院に紹介しており,内訳は膵臓癌,食道癌の順に多かった(図2b).同期間の消化器がん手術は150件で当院での手術が122件(大腸癌が最多),大学での手術が18件(膵臓癌12件,食道癌6件,胆管癌5件,肝癌2件, 胃癌2件),他院での手術が10件であった.
III.医療情報ネットワークの活用による遠隔連携診療
2018年度より“くまもとメディカルネットワーク(以下,KMN)”が熊本県全域で本格始動した.KMNは県内の参加医療機関において患者の診療情報(受診歴,処方,血液検査,画像検査等)をオンラインで共有できるシステムである4).熊本県と熊本県医師会が事業主体であり,熊本大学病院の協力のもと,県内全域で参加登録が進められている.また,同年度から地域医療連携実践ネットワーク事業(前3者が協力し大学から地域拠点病院に非常勤を派遣)も始動し,当院にも消化器外科専門医が週2回派遣されている.派遣医師は腹腔鏡手術の推進と共に,KMNを用いて大学との遠隔連携診療を開始した.
約1年半の遠隔連携診療で20例を診療した.疾患の内訳は肝胆膵癌が多く(図3a),目的の内訳は大学における手術後のフォローと腹腔鏡手術シミュレーションが多かった(図3b).KMNによる情報送信を活用することで,従来通りの診療体制で行った場合に予想される数と比較し,患者移動,紹介状持参もしくは郵送,画像CD-ROM作成はいずれも著減した(図3c).
IV.おわりに
地域がん医療需要における高齢化は確実に進んでいる.高齢者のがん外科医療においては,併存症や社会的背景を充分に考慮しながら,より慎重に治療方針を決定せねばならない.また,肝胆膵癌や食道癌など,より専門的な治療が行われる領域では方針の決定や高難度手術の実施において大学の支援が必要である.遠隔連携診療の主な目的はこれらのニーズに対応することである.KMNの活用により,患者移動や医療事務作業が著減することで迅速な治療方針の相談,実施が可能となり,遠隔連携診療が促進される.遠隔連携診療はさらに,手術適応の確認や腹腔鏡手術シミュレーションにも役立っており,地域外科医の手術専門性や意識の向上につながると思われる.このような取り組みが安定した地域外科医療の維持につながることを期待する.
利益相反:なし
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