日外会誌. 122(6): 689-691, 2021
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(5)「資源の集中と地域医療」
1.連携とチームで実現する地域外科医療
1) 京都府立医科大学 北部医療センター外科 落合 登志哉1)2) , 住吉 秀太郎1)2) , 中井 理絵1)3) , 原田 恭一1)2) , 竹本 健一1)2) , 越野 勝博1)4) , 當麻 敦史1)2) (2021年4月9日受付) |
キーワード
地域医療, 外科, 病病連携, チーム制主治医
I.はじめに
筆者の所属する京都府立医科大学附属北部医療センターは一般病床276,感染・結核病床19床を有する.京都府最北部にある丹後医療圏にあり,日本三景の一つである天橋立を望む与謝野町に立地している.四季に富む地域で冬はかなりの積雪をみる.京都市にある大学からは約111km離れており,京都縦貫道を利用して車で約1時間50分かかる.この地域を含む本邦のおけるいわゆる僻地と呼ばれる地域の高齢化,人口減少は都市部を上回るスピードで進んでいる.少子化という根本的な問題以外に若者が地方から大都市に流出する人の流れが止まっていない1).丹後医療圏においては住民基本台帳に基づく人口,人口動態および世帯数によれば平成27年には住民102,851人で65歳以上の高齢化率が34.6%であったが令和2年3月には同89,900人,39.2%になった.この医療圏に病院は当院を含んで六つあるが当院以外では各々外科医は実質2名以内であり,麻酔科医不在の問題もあり,夜間や休日緊急手術に対応できるのはほぼ当院のみとなっている.人口は減少しているが高齢化に伴い外科需要はむしろ高く,患者は合併疾患や進行癌,老老介護や独居という社会背景を考慮すると寧ろよりきめ細かい適正な外科治療が必要となっている.すなわち,退院後の生活を見据えた治療である.
医療資源側の課題としては医師の短期間での交代,専門医の偏在,多数例による手術修練や学会等の参加困難,さらに薬剤師やコメディカルスタッフの不足等がある.今回,当外科の対応について総括した.
II.現状
近隣病院・医師会等との連携
当院は大学の附属施設であり大学医局から派遣された麻酔科や病理科医師が常勤する.また外科のスタッフも大学の各医局から派遣されており,令和3年3月時点では総勢7名で消化器外科専門医4名,肝胆膵高度外科指導医1名を含む.外科手術は消化管,肝胆膵,乳腺,一般外科症例が主で年間420例程度行われている.心臓血管外科・呼吸器外科手術症例は隣接する医療圏のその領域の指導医が赴任する病院に紹介している.また合併症の際にIVR医の応援を頼む場合もある.丹後および隣接医療圏の病院には逆に肝胆膵指導医不在で当院から派遣する.食道癌に関しては縦隔内視鏡手術が可能な場合大学から指導医を招聘している(図1).同じ大学施設であり,当院のカルテを附属病院医師は附属病院に居ながらにして見ることができる.同じ医局員なので附属病院とは元より関係は密接であるが近隣病院外科医とも北部の研究会,講演会等を通じて交流するようにしている.
患者の多くは主に地元医師会の開業医,介護施設から紹介されるが手術後は退院しても在宅医療が必要な患者も多く,開業医の訪問看護ステーションを利用している.そのため普段から病院主導の合同症例検討会,医師・介護施設関係者一堂に会しての事例検討,医師会主催の月々の講演会や共催の懇話会,医師会行事等を通じ関係を密接にしている.
また,医師会開業医と連携看取りシステムという試みも行っている.これは基本当院で治療した患者が退院後かかりつけ開業医に繋いだ後,病状が徐々に悪くなって開業医がいないときに自宅で亡くなった場合,当院の医師が赴き,看取りを行うシステムである.入院中に馴染みがあるため,家族の理解も得やすい.京都府保険福祉統計の管内看取り状況によれば丹後医療圏が京都府の他医療圏と比較して在病院死亡が少ないのはこうしたことも影響している.
複数主治医・チーム医療の確立
外科専門医の経験を積むために派遣される心臓血管外科医局出身は1年,そのほかの医師も多くは2~3年で移勤する為,原則主治医は複数としチーム医療を確立している.同じ大学医局出身者ということで患者に対しては何人か医師が交代しても外科全体としては変わらないというスタンスを説明し,診療面において示した.
III.結果
外科専門医の経験
2016年1月から2020年12月までの5年間にまた通常の疾患に加えて悪性腫瘍に対して施行した手術は食道亜全摘2例(内視鏡手術2例 以下同じ),幽門側胃切除119例(72例),全摘48例(16例),噴門側胃切除2例(2例),LECS 3例,結腸切除223例(192例),直腸切除・切断102例(83例),肝切除90例(10例),肝切除+胆道再建8例,膵頭十二指腸切除26例,膵尾側切除17例(3例).拡大胆摘10例,乳房切除121例であった.一方,この間に施行された他院への肝胆膵手術指導は58例であった.
救急においては緊急手術が必要な症例は勿論,専門医師のいない科の疾患も他病院に移送する為全て受け入れた.上記に示したように食道癌,肝門部胆管癌に加えて腎移植等の高難度手術も経験でき,地域にあっても外科専門医資格取得に支障はなく,心臓血管外科医局出身医師も全て外科専門医を取得できた.
研究活動
チーム制のため学会も出張可能で,同じく2016年1月から2020年12月までの5年間で国際学会3題を含め学会発表全52件,英文論文3編を含め論文作成24編であった.
IV.残る課題
北部出張は基本的に医師が単身赴任となる場合が多い.また家族で赴任していても子供が就学年齢に達すると家族が市内に戻り,単身赴任となる.当院においては既婚者5人中3人が単身赴任であった.そのため,休日においては市内に帰ることも多いが一方,緊急手術に対応するためには休日には2人のオンコール待機が必要になる.当院においてオンコールは基本的に給料がつかないが拘束されることにはなる.医師の働き方改革を考えても当直体制やオンコール等時間外の勤務を集約化して同じ医療圏他病院の外科医の力を借りることが,それが出身大学医局の異なる場合でも,可能か検討の余地があると考えている.
V.おわりに
地域で健全に外科医療を行うためには一定規模の外科医療資源と症例の集約化が必要である.当医療圏の専門疾患を一病院に集約していることは適正と考える.新型コロナ感染症で一般化した学会,会議等のweb開催は地域にとっては有り難い面があり,コロナ感染収束後も部分的には残していただきたいと考える.
利益相反:なし
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