日外会誌. 122(6): 654-658, 2021
手術のtips and pitfalls
肝機能障害を合併する腸管機能不全への小腸移植術
国立成育医療研究センター・臓器移植センター 阪本 靖介 , 笠原 群生 |
キーワード
腸管不全関連肝障害, 肝・小腸同時移植, 肝・小腸異時移植
I.はじめに
腸管機能不全を呈した患者は長期にわたり静脈栄養に依存することとなり,50%の症例が進行性胆汁鬱滞性肝障害を発症し,25%が末期肝不全に陥る.このような病態を腸管不全関連肝障害(Intestinal Failure-Associated Liver Disease: IFALD)と呼称し,併存する肝障害が可逆性か否かは,小腸移植の適応,および肝臓を含めた多臓器移植を選択する上で重要となる.高ビリルビン血症と,脾腫・血小板減少を伴う門脈圧亢進症を呈する場合には肝障害は不可逆性である可能性が高く,肝・小腸同時移植の適応と考えられる1).小児症例に対する小腸移植の場合に,患者体格にあった小児脳死ドナーからの臓器提供は稀であり,わが国の場合には脳死ドナー臓器提供数の不足に加えて,肝臓を含めた多臓器移植を実施するにあたり有効な臓器分配システムが整っていない.そのため,肝臓移植と小腸移植を異時性に施行する症例も存在し,肝臓移植においては生体ドナーからの部分肝臓の提供を受けることもある2).
肝機能障害を合併する腸管機能不全症例に対して単独小腸移植を実施する場合に注意する点はグラフト静脈の再建方法である.再建先としてレシピエント上腸間膜静脈と脾静脈の合流部,あるいは腎下部下大静脈となる.肝障害を呈する場合には少なからず門脈圧亢進状態であるため,レシピエント門脈系に再建することはグラフトうっ血を招く恐れがある.術中に門脈圧を測定し門脈圧が高値であれば門脈系への再建は避ける.小腸移植を実施した後に肝移植を実施する場合には,単独小腸移植時に静脈再建がどの部位に行われているかにより肝移植時の手術手技が異なる.門脈系に再建されている場合には,肝摘出から移植肝血流再開までの間に門脈血流が遮断され移植腸管のうっ血を招くため,porto-caval shuntを作成する必要がある.また,肝移植時の肝静脈再建では下大静脈を完全遮断しないように,移植腸管のうっ血をきたしていないか注意しながら血管鉗子をかける.肝移植時の胆管再建はグラフト胆管とレシピエント胆管を再建する方法が理想的であるが,レシピエント胆管が使用できない場合には,グラフト胆管を十二指腸,あるいは挙上した移植空腸に吻合する方法がある.
利益相反:なし
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