[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (1470KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 122(6): 650-653, 2021

項目選択

手術のtips and pitfalls

腸管運動機能障害への小腸移植術

東北大学 大学院医学系研究科外科病態学講座小児外科学分野

和田 基 , 工藤 博典



キーワード
腸管運動機能障害(intestinal motility disorders), 小腸移植

<< 前の論文へ次の論文へ >>

 
重症の腸管運動機能障害(intestinal motility disorders)は静脈栄養に依存する腸管不全(intestinal failure)に陥り,さまざまな合併症により小腸移植の適応となりうる.国際小腸移植登録によると成人の小腸移植の10〜15%,小児の小腸移植の約20%が腸管運動機能障害を原疾患とすると報告されているが 1),本邦の腸管不全における腸管運動機能障害症例数は欧米よりも多いと考えられ2),本邦小腸移植症例登録報告によると2018年12月末までに日本国内で実施された小腸移植28例32回の小腸移植のうち約半数の14例(44%)の原疾患が腸管運動機能障害であった3)
腸管運動機能障害に対する小腸移植において,特に胃の運動機能障害のため胃から十二指腸への排出障害を伴う症例に対し,海外では胃を含めた多臓器移植が行われるのは一般的であるが,本邦の脳死ドナーからの臓器提供数がいまだ少なく,ほぼ全例近くに膵臓の提供が行われること,法的に胃が移植可能な臓器として想定されていないことなどからこうした症例に対し胃を含む多臓器移植を行うことは現状ではできず,小腸移植時または移植後の消化管再建に工夫を要する.
筆者らの施設では,これまでに11例の腸管不全症例に対し13回の小腸移植を行っており,うち8例が腸管運動機能障害であった.胃からの排出障害を伴う3例は胃と小腸グラフトの吻合を要し,初期の2例は安定した胃から小腸グラフトへの通過が得られず管理に難渋したが,最近のMegacystis Microcolon Intestinal Hypoperistalsis Syndrome:MMIHSの1例は消化管再建の工夫により経口摂取も可能となり経過良好である.
比較的結腸の運動機能障害が軽度で直腸肛門機能の保たれている症例は自己の直腸肛門からS状結腸までを温存し,ストマ閉鎖に至った症例もある.MMIHSや広域型Hirschsprung病など結腸を含む高度運動機能障害や直腸肛門機能障害を伴う症例に対し,われわれは結腸を含む移植を行っているが,直腸肛門形成を行いストマ閉鎖に至ったのは最近の1例のみである.
本稿では,こうしたわが国の移植事情下における腸管運動機能症例に対する小腸移植時あるいは移植後の消化管再建の工夫とpitfallsについて概説する.

 
利益相反:なし

図1 図2 図3 図4 図5 図6

図01図02図03図04図05図06

このページのトップへ戻る


文献
1) Raghu VK , Beaumont JL , Everly MJ , et al.: Pediatric Intestinal Transplantation:Analysis of the Intestinal Transplant Registry. Pediatr Transplant, 238:e13580, 2019.
2) Ueno T , Wada M , Hoshino K , et al.: A national survey of patients with intestinal motility disorders who are potential candidates for intestinal transplantation in Japan. Transplant Proc, 45: 2029-2031, 2013.
3) 日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究会:本邦小腸移植症例登録報告.移植,55(3): 291-296, 2020.

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。