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日外会誌. 122(5): 575-577, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「≪緊急特別企画≫パンデミック状況下における外科診療と教育」
7.パンデミック下における外科卒前教育の工夫

名古屋大学 消化器外科2

髙見 秀樹 , 小寺 泰弘

(2021年4月9日受付)



キーワード
パンデミック, COVID-19, 外科教育, ICT, 臨床実習

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I.はじめに
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を鑑みて,本学においても2020年3月4日に臨床実習が中止となり,また愛知県独自の「緊急事態宣言」が発令された後の4月17日からは学生の来学も禁止となった.
本邦では初めてのパンデミックによる臨床実習の中止とその後の限定的な実習再開までに当教室で行った臨床実習の工夫について報告する.

II.来学禁止時の授業・実習
来学禁止された2020年4月頃,本学での授業指針は以下のごとく定められた1)
・指揮系統を明確にし,情報を公開
・コロナ留年を回避する
・すべての学生に十分なインターネット接続環境が保証されるまでは同期型web授業を全面展開しない
・無理をしない
特に,本学では学生に対するアンケートにより自宅にネット環境が整っていない学生が一定数いることがわかった.これにより講義については安易に同期型(Zoomなど)を採用せず,非同期型とすること,臨床実習を含むすべての実習は「レポート課題で単位を保証する」となった.
そこで外科の臨床実習では学生に対して指導医が英語論文のレポート課題を課すこととした.しかし,レポート提出が臨床実習の代替としては十分であるとは思い難く,実際学生からも臨床実習が行えないことに対する不安の声が聞かれた.

III.学生向け動画・スライド集作成
来学できず,手術見学ができていない,手技の練習ができない,といった意見に対し,自宅からでも接続可能なオンデマンド型の動画・スライド集を作成することとした.まず指導医に学生向けスライドや短時間の動画の提供を呼びかけた.集まった動画やスライドは大学内のストレージサービス(NUSS:Nagoya University Storage Service)内にパスワード付きで保存し,それぞれの動画やスライドへアクセスするためのURLをGoogleスプレッドシートに一覧としてまとめた.情報漏洩を考慮し,このGoogleスプレッドシートのアクセス権および,動画やスライドのパスワードについては登録した学生・研修医にのみ付与した.
2021年3月までにのべ66人が登録した.使用状況についてアンケートを行った所,11名(学生7名,研修医4名)からの回答があり,とても役立ったと答えた利用者が8人(72.7%)であった.

IV.来学禁止時の選択臨床実習
この年の6年生は,7週間ずつ二つの診療科を集中的にローテートする選択臨床実習が行われる予定であった.しかし来学禁止のため,外科を積極的に選択してくれた学生に対する実習ができない事態となった.そこで,本人たちのWeb環境を確認した上で,ZoomやSNS(Social Networking Service)などを用いた同期型を含む双方向性オンライン臨床実習を行うこととした.
Zoomを用いた実習では,事前課題を出した上でオンラインクイズを行ったり,糸結びの練習後に実際の手術中の結紮動画を見せるといった反転授業を中心に行った.また手技については自宅でできる糸結びなどの手技をスマホ動画で撮影し,NUSSにアップロードしてもらい,これをSNS上でフィードバックした.

V.来学再開後の臨床実習
2020年6月からは来学可能となったが,それ以降もガウンなどのリソース不足から手術室での手洗いは当面中止など制限のある実習となった.患者と接する実習を行うかどうかは診療科ごとに一任されたが,外科としては担当患者の回診や手術見学は行うこととし,学生や指導医が一同に集まる全体回診やカンファレンス・講義は行わないこととした.
このため学習目標や方略は一部変更を余儀なくされたが(図1),実習後アンケートでは満足した学生がコロナ前後で82%から78%と大きな変化はみられず,比較的良好な結果であった.また,先の動画・スライド集を予習復習に使うことができた,という学生もおり,逆境において前進した部分とも考えられた.

図01

VI.アフターコロナを見据えた臨床実習の工夫と課題
オンライン実習でも知識については十分な学修が可能である一方で手技や態度教育は不十分になるといわざるをえなかった.しかし動画投稿などを用いることで手技もある程度は学修可能であった.
オンライン授業を行う上では通信環境などの学生側の負担とともに,不慣れなICT(Information and Communication Technology)を用いる指導医側の負担も考慮しなくてはいけない2).使用するICTツールは必ずしも同期型でなくてもよく,動画や音声入りスライドのオンデマンド型配信,SNSを利用したフィードバックやこれらを統括したLearning Management Systemの使用など,同期・非同期をうまく選択することが重要であると考えられた3)

VII.おわりに
コロナ禍で外科教育も大きな苦境を迎えることになった.しかしICTを用いた教育方法や教材の開発という大きな変革も得ることができた.ベッドサイドや手術室でないと学べない内容を十分吟味し選択することが,感染蔓延の防止だけでなく,より効率的で効果的な臨床実習につながる可能性があると考える.

 
利益相反:なし

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文献
1) 錦織 宏 , 黒田 啓介 , 近藤 猛 ,他:新型コロナウイルス感染症拡大状況下で医学生は何をどのように学ぶべきなのか?:名古屋大学医学部医学科の経験.第6回:4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム.国立情報学研究所.2020/5/1 オンライン開催.
2) 錦織 宏 , 西城 卓也 :オンライン教育の展開における学修弱者への配慮.医学教育,51(3): 309-311,2020.
3) 近藤 猛 , 高見 秀樹 , 錦織 宏 :オンライン臨床実習にも転用可能なオンラインPBLの実践報告.医学教育,51(3):276-278,2020.

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