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日外会誌. 122(5): 529-531, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「各領域から考える外科専門医制度」
7.小児外科領域から考える外科専門医制度

1) 千葉大学 小児外科
2) 鹿児島大学 小児外科
3) 国立成育医療研究センター 外科・腫瘍外科
4) 自治医科大学 小児外科
5) 京都府立医科大学 小児外科
6) 日本小児外科学会専門医制度委員会 

菱木 知郎1)6) , 家入 里志2)6) , 米田 光宏3)6) , 小野 滋4)6) , 田尻 達郎5)6)

(2021年4月8日受付)



キーワード
小児外科, 専門医制度, 日本小児外科学会専門医制度委員会

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I.はじめに
小児外科は15歳以下のこどもを対象とし,主に胸部・腹部・骨盤臓器の外科治療を担う領域である.小児は成長の過程にあり,年齢により疾患・診断法・治療法が異なる.また扱う臓器が多岐にわたること,各疾患が希少であり,十分な手術経験を得るのに時間を要することなど,小児外科には専門医制度を考える上で重要ないくつかの特徴が存在する.本稿ではこのような小児外科の特性をふまえて,小児外科専門医制度の現状と課題について概説する.

II.小児外科の現状と小児外科専門医
日本小児外科学会では従来専門医制度を通して小児外科専門医と専門施設の品質管理を担ってきた.日本小児外科学会ホームページには小児外科医を「子どもを安心して預けることができる外科医」と位置づけている.小児外科医は単に手術に必要な解剖学的な知識の蓄積だけでなく,小児の成長を考え合わせた特性や小児の外科疾患の特徴についての十分な知識と経験を有する外科医である.わが国では出生率の低下によりこどもの数そのもの減少しているが,患者一人一人に対してより質の高い医療の提供が求められる時代であり,専門性の高い小児外科医療のニーズはむしろ拡大しているといえる.新生児外科手術症例が出生率の低下に反していまだ増加傾向にあることは,社会において小児外科医療の需要が変わらず存在することを顕著にあらわしている.

III.小児外科専門医の取得条件と研修施設
小児外科専門医の取得には,表1に記載した条件が必要とされる.小児外科専門医は外科専門医を基本領域とするサブスペシャルティ専門医であるが,先述の通り小児外科医は多くの臓器に携わる必要があり,多領域の研修を経験できる外科専門研修の意義は特に大きいと考えられる.
小児外科専門研修は,学会が指定する研修施設でのみ行うことができる(表2).研修の基幹施設となる認定施設を中心に,教育関連施設A,教育関連施設Bが認定施設と連携して専門研修を担う.さらに小児外科診療を開設して3年以内の施設を対象とする特定教育関連施設を昨年新設した.専門医新規申請の際に必要な臨床経験は上記の研修施設で行われたNCD-P(小児外科領域のNCD)登録症例に限定している.

表01表02

IV.小児外科領域における専門医制度の課題
小児外科専門医の適正配置については現在学会で取り組んでいる課題の一つであり,継続的な検討が必要な案件であると認識されている.2021年現在,すべての都道府県に小児外科専門医が一人は勤務している状態となっており,かつて専門医不在の都道府県が存在する問題は解消されている.一方で小児外科領域では手術の種類が多岐におよび,それぞれの症例数が限られるため,小児外科専門医を目指す若者が十分な経験を得るには小児人口が多い都市部や地方の中核都市のハイボリュームセンターでの研修が効率的である.その反面,小児人口の少ない地方の遠隔地においても一定の小児外科医療のニーズがあり,こうした地域の医療を支えるマンパワーも必要とされる.地域による人口の不均衡が大きい小児ではこの問題は特に顕著である.少子化が進む社会において小児外科医を目指す若手医師が十分な診療経験を積むための包括的な研修体制を整備しつつ,どの患者も等しく水準の高い小児外科医療が受けられるようなシステムの構築を目指す必要がある.

V.新専門医制度時代における小児外科専門医制度の取り組み
以上の背景をふまえた上で,以下に日本小児外科学会が行っている取り組みを紹介する.
新制度下で小児外科をはじめとする複数のサブスペシャルティ領域において外科専門医研修が1年終わった時点でサブスペシャルティ研修を開始する「連動研修」が可能となる見込みである.基本領域である外科専門医の専門研修においてはプログラム制が採用されており,あらかじめ決められた研修プログラムの中でのみ修練医の移動が認められている.対して小児外科専門医制度では,従来複数の施設で研修を経験しながら定められたカリキュラムを達成するカリキュラム制度をとってきており,新専門医制度においてもカリキュラム制度を適用する.これにより別の研修施設群との間の行き来も可能となる.小児外科では医療圏や都道府県にこだわらず,ハイボリューム施設での研修をもとめて修練医が遠方で研修を続けることが少なくないが,カリキュラム制度によって他の専門研修施設群との移動を認めることで研修の自由度を担保している.
2015年のNCD annual reportによると16歳未満の手術のうち2~3割の症例が認定施設・教育関連施設外で行われており,この中には専門医が手術に関与しながら研修施設としての条件を満たしていない施設が相当数あることが示された.そこで従来の認定施設,教育関連施設に加えて,手術症例総数・指導者の勤務形態を緩和した教育関連施設Bを新設した.小児外科指導医・専門医の指導下に行われた小児手術であるにも関わらず,従来専門医取得に手術に算定できなかった症例もこれにより算定できるようになった.
小児外科医療の均てん化・集約化の問題にも継続して取り組んでいる.日本小児外科学会ではNCD現在,小児外科領域のデータを解析し,都道府県ごとの専門医数,都道府県ごとの専門医が関与する手術数および総手術時間を算出し,これを元に適正な小児外科専門医の数を検討する作業を現在行っている.

VI.おわりに
小児外科専門医制度の現状と課題について概説した.今後も日本小児外科学会として,小児外科医療の集約化と均てん化を検討しつつ,質の高い小児外科専門医(将来の指導医)を十分数,教育・輩出して地域に還元することをめざし,時代のニーズと本邦における小児外科医療の特性に適合した魅力ある新専門医制度を構築したいと考えている.

 
利益相反:なし

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