[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (718KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 122(5): 520-522, 2021

項目選択

定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「各領域から考える外科専門医制度」
4.内分泌外科から考える外科専門医制度

筑波大学 医学医療系乳腺甲状腺内分泌外科

原 尚人

(2021年4月8日受付)



キーワード
内分泌外科専門医, 地域暫定専門医・関連施設制度, 地域教育専門医

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
内分泌外科専門医は様々な複雑な背景を持っていたが,できうる限りの改善に努めている.その上で専門医や修練施設の地域偏在も大きく問題視され,踏み込んだ対策制度を設け成果を上げつつある.同様にこのコロナ禍の中で地域医師偏在の解消への要求が高まっており,さらに踏み込んだ来策制度を検討している.これは外科専門医制度においても共通の課題と考える.追加として出産子育てからの復帰支援としての外科専門医プログラム制度とカリキュラム制度についても少し言及したい.

II.内分泌外科専門医の背負う複雑な背景
内分泌外科専門医制度は12年前に発足されたが,「日本内分泌外科学会」と「日本甲状腺外科学会」という二つの学会にまたがり,さらに基盤専門医分野も外科・耳鼻咽喉科・泌尿器科と三つの分野にまたがるという複雑な背景を持っていた.これを解消すべく,二つ学会の発展的統合を行った.幸い統合は順調に進み,2019年4月より完全な形で「一般社団法人 日本内分泌外科学会」が発足した.専門医制度委員会も学会と一対一対応となり,他の活動も含めすべて順調に機能している.この間,「内分泌外科専門医」は外科の六つのサブスペシャルティ領域の一つとしてお認めいただき,引き続き日本専門医機構にも同様に外科6サブスペシャルティ領域の一つとして正式にお認めいただいた.

III.サブスペシャルティ領域の連動研修と専門医制度の地域偏在問題
内分泌外科専門医制度において,以前より専門医や修練施設の地域偏在が課題となっていた.この対策として,地域病院への働きかけや中央コンサルテーションシステムなど試みてはいたが思うように成果を上げていなかった.
サブスペシャルティ領域の連動研修の検討がはじまり,この地域偏在問題により深刻な状況に追い込まれた.内科・外科・放射線科は日本専門医機構より各々サブスペシャルティ領域が認定されており,このサブスペシャルティ領域専門医の取得時期を早めるため,基盤領域専門医研修中にサブスペシャルティ領域専門医研修を重ねて開始できる連動研修が検討されていた.それらは領域の専門性や地域医療との連携を踏まえ次の三つに分類された.
1.連動研修を行い得る領域 2.連動研修を行わない領域 3.少なくとも一つのサブスペシャルティ領域を修得した後に研修を行う領域
外科6サブスペシャルティ領域専門医では「内分泌外科専門医」のみ連動研修を行わない領域に分類,他の5領域は連動研修を行い得る領域に分類される見通しとなった.
この理由として会議が行われた2020年3月の時点では専門医不在県と修練施設不在県が各々2県存在し連動研修を行い得る領域を満たす条件に至らなかったことを指摘された.
われわれはこの問題を解消すべく,すぐさま学会を挙げて対策に取り組んだ.まず,地域偏在の原因として,「専門医がいないと施設が認定されない,認定施設がないと専門医が育たない」という悪循環に陥っていることが挙げられた.この悪循環を打ち破るため,新たに「日本内分泌外科学会 地域暫定専門医・関連施設制度」を制定した.
対象:専門医・修練施設(学会認定施設・関連施設)不在県または少ない県.
地域暫定専門医:通常の専門医と同等の診療実績,研究業績を持つ学会員に対して,専門医制度委員会が推薦を行い申請促す.地域性を鑑み,診療実績がわずかに満たない場合,面接で判定を行う.
地域暫定関連施設:年間手術数が通常の実績を有さずとも,地域の基幹病院であり,その地方の専門医制度委員が責任をもって指導することを条件に認定する.
各病院ホームページを中心に様々な情報を入手し,該当する学会会員や施設に専門医制度委員会から直接働きかけることにより数件ずつの応募があった.通常の手順に準じて審査の結果大半が合格,2021年2月をもってすべての都道府県に内分泌外科専門医と修練施設が誕生,不在県の問題は解消した.この結果をもって「連動研修を行い得る領域」の一つとしてお認めいただくよう引き続き努力を続ける覚悟である.また現時点では最低条件がクリアされただけであり次項のごとくさらなる地域偏在解消に向けて対策を進めている.

IV.コロナ禍における地域医師偏在解消へ向けた議論
コロナ禍のため県をまたいで大都市に手術を受けに行くということが困難な状況が続いている.そのため以前より取り沙汰されていた医師地域偏在解消問題にかかわる議論に急激に拍車がかかっている.その議論の中で日本専門医機構の寺本理事長より「医療資源の少ない地域を専攻医が希望しない理由の一つに,地方での指導医不足」という発言がみられた.これらの流れで,専門医取得後の更新要件として,一定期間地域医療への勤務義務などが提案されているが現実にそぐわない.
内分泌外科専門医制度委員会ではこの地方での指導医不足やさらなる地域偏在の解消に向けて,積極的なシステムを模索している.
その今後の構想案として検討を始めたのが「地域教育専門医システム」である.これは
・手術指導経験豊富な内分泌外科専門医・名誉専門医を学会が「地域教育専門医」として認定,地域へ派遣,手術指導を行う.
・学会が教育の質を担保し,地域医療(地域の大学外科講座,地域の病院・医師会・行政)と連携し,地域の実情に合わせて柔軟に対応しながら進める(図1).
・人材の確保:リタイアまたはセミリタイア(顧問など名誉職についている)後の専門医・名誉専門医を想定.
このシステムにより,患者のメリットとして大都市の病院まで行かずに,在住地域で質の高い手術が受けられることである.
専攻医のメリットとして,経験豊富な内分泌外科医から直接手術指導が受けられることは言うまでもない.さらに学会からも,修練施設でない病院であっても,内分泌外科専門医取得に必要な手術経験数(2.5症例分)としてカウントできるなど有利な材料を提供することを検討している.また,関連施設申請に必要な年間手術数2例分など,病院としてもメリットがあるように設定し浸透をはかることも考えている.

図01

Ⅴ.外科専門医を目指す専攻医のライフプラン
乳腺専門医を目指す専攻医はすでに女性医師の割合が高いが,内分泌外科専門医においても急速に女性医師の関心が高まっている.
現在外科専攻医プログラムでは「出産育児等に伴い,3年間のプログラムの中で180日まで休止が認められ,180日を超える場合その期間のプログラム修了期間が延長される」とある.まだこのシステムを知らない専攻医も多く,完全には浸透していない印象を受けるが,これをうまく利用することにより,多くの外科専攻医(特に女性医師)はプログラム修了のハードルを下げられると考える.
一方このシステムを利用してもなおプログラムの修了に難航している専攻医がいることも事実である.例としては子育てで親の支援を受けるため,指定された勤務地を離れて勤務しなくてはならない場合などが挙げられる.そのため,勤務場所や勤務形態・期間の選択が広がるカリキュラム制は一定の需要があると考える.

VI.おわりに
内分泌外科専門医制度は地域偏在を是正すべく努力を続けている.そのため外科サブスペシャルティ領域専門医連動研修は,他基盤領域への流出を防ぐためにも,外科6サブスぺ一律に行うことが望ましい.また子育てとの両立にはカリキュラム制も含めた柔軟なシステムの取り込みが必要であると考える.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。